スタイリストのおおさわ千春さんが大人の女性が手にすべき「本物」をご紹介するこの連載。ご自身の体験をもとに、迷い世代の日常に必要な“ブランド力”をどう取り入れるべきかを指南いただきましょう。第3回目は、「ジャケットマニア」を自認するおおさわさんが20代の頃から愛用している、ジョルジオ アルマーニのジャケットをご紹介。
前回の記事はこちら>> ジョルジオ アルマーニ 1984年春夏シーズンの広告ビジュアル。©Aldo Fallai〔迷い世代の服選び〕40代にこそ効く「ブランド力」第3回
ジョルジオ アルマーニ
ワードローブの中でも、私が最もこだわっているアイテムがジャケット。なで肩がコンプレックスだったので、肩パッドが入ったジャケットがマストアイテムだったのです。
実はスタイリストになる前、デザイナーであると同時に服のパターン(型紙)も引いていた私は、美しいジャケットを作るのがどれほど難しいかを知っていました。だからこそ、ジャケットに対する思い入れも深いのです。
20代で出合ったアルマーニが「ジャケット好き」の原点
そもそも、私がジャケットというアイテムに興味を持ったのは、20代の初め、90年代のこと。当時、知人の男性がジョルジオ アルマーニのジャケットを着ていて、その完璧な仕立てと美しさにひと目惚れしたのです。
私はさっそく、アルマーニのブティックへ。そこで初めてアルマーニのレディスのジャケットに袖を通して、今まで着てきたジャケットとの違いに驚き、感激しました。それから数年、20代後半でついに念願のジャケットを初購入。当時の私には高い買い物でしたが、実際に着てみてその素晴らしさをさらに実感。以来、数着を手に入れ、今でも大切に持っています。
医学的見地から人体の構造を学び、ジャケット作りに生かす
ジョルジオ アルマーニ 1985年秋冬シーズンの広告ビジュアル ©Aldo Fallai私が、アルマーニのジャケットの特徴だと思うところは2つあります。
1つ目は、肩パッドを入れなくても、完璧に美しいショルダーラインを作り出すところ。私はパターンを引けるのでわかるのですが、これはとても高度な技術なのです。
もう1つは、肩へと繋がる首の付け根の部分を見せない工夫がなされた襟元のデザインです。以前、パタンナーの先輩が、「服はネック回りの開き次第で印象が変わり、それによって似合う年齢層も違う」と話していたのですが、首の付け根部分は、身体の厚みまでミリ単位で計算しないと、襟が浮いてしまう難しい場所。身体の薄い若い世代と、首に肉がつき厚みが出てくる世代では、身体にフィットするネック周りのデザインは違ってきます。
アルマーニ氏は、服作りに携わる前には、ミラノ大学医学部に在籍し、人体構造を学んでいたといいます。身体のどこをどう見せると美しいのか、どうすればしなやかに身体にフィットするのか?――私自身、年齢の重なりを首元に感じてきた40代を過ぎて、再び20代の頃に購入したジャケットを着てみた時、若い頃とは変化したネック回りにも美しく映える襟元を見て、「アルマーニの美しさの表現は、肉体との会話にあるのではないか」ということに気づいたのです。
先輩が話していたように、ジャケットは、首の付け根が見えるか見えないかで印象が変わるもの。だから、アルマーニの、首の付け根をさりげなく隠すデザインは、首に年齢が出てくる40代以降の女性の身体をも美しく見せ、“年齢不詳”な印象を作り出すのだと思いました。
身体の動き、筋肉のつき方など、医学的な専門知識を服作りに生かし、かつ年齢を重ねた身体を、どう見せれば美しいのかまで計算したアルマーニは、まさに「40代からのジャケット」だと思ったのです。