九十九里浜、鹿島灘でとれたはまぐりを味わえる東京の店
ふっくらと仕上げた香り豊かなバター焼き
【ぽん多本家(上野)】
蛤バタヤキ創業明治38年の老舗洋食店「ぽん多本家」。初代は宮内庁の料理人で、現在は4代目の島田良彦さんが腕を振るいます。
人気のカツレツやフライに並ぶ定番メニューが、たっぷりのバターでさっと焼き上げた「蛤バタヤキ」です。
「50年ほど前から始めたメニューで、豊洲市場にある貝専門の仲卸、『丸佳』さんから仕入れています。丸佳さんとは長いおつきあいで、ご主人とは同年代。貝のスペシャリストですね。九十九里浜と鹿島灘の上質なはまぐりを、週に3、4回仕入れてもらっています」と島田さん。
九十九里浜や鹿島灘のはまぐりは、身が大きくきれいなピンク色で、豊かな香りと甘みが特徴です。
はまぐりのむき身は水気をきって、小麦粉を軽くまぶす。熱したフライパンにバターを溶かし、フライパンをゆすりながら、片面ずつ中火で焼く。写真のサイズで片面30秒ほど。わたの部分に火が通れば完成。皿に盛りつけ、レモンと醬油をかける。その特徴を最大限に引き出すためのポイントは、火を入れすぎずに焼き上げることです。
「パン粉をつけて揚げてみるなど、いろいろと試してみましたが、最終的にはバター焼きに落ち着きました。火加減をコントロールできるので、ふっくら仕上げることができます」。
はまぐりびと(7)
「ぽん多本家」4代目主人
島田良彦さんはまぐり歴:34年。21歳で家業に入る。
好きなはまぐり料理:バター焼きと煮はまの握り。身が締まりすぎず柔らかなはまぐりが美味。
はまぐりへの想い:揚げものが苦手なお客さまにも好評な「蛤バタヤキ」。輸入物とは全く違う、九十九里浜や鹿島灘の地はまぐりの味わいを堪能してほしい。
ぽん多本家住所:東京都台東区上野3-23-3
TEL:03(3831)2351
営業時間:11時~13時45分、16時30分~19時45分(ともにLO)
定休日:月曜
蛤バタヤキ3300円(税込み)。
蒸し汁を存分に生かして仕立てる中国料理
【虎穴(東日本橋)】
上・はまぐりのスープ、下・揚げはまぐり。はまぐりのスープベースとなるスープは、鶏肉、牛すね、豚すね、利尻昆布、しいたけなどでとったもの。そこに塩とねぎ油、はまぐりの蒸し汁を加え、最後に蒸したはまぐりの身を合わせる。今回は、行者にんにくと、たらの芽を添えて、爽やかな一品に。揚げはまぐりそら豆の雲呑とともに特製の揚げ粉でさくっと揚げたひと皿。「家庭では片栗粉で代用可。蒸した身の水気を取り粉を薄くまぶし、少し時間をおいてころもをなじませたら220度で揚げます」。蒸し汁とねぎ油を合わせたソースをかけていただく。「見てください、身が大きいでしょう」といってはまぐりを見せてくれたのは、すしネタに使える上質な魚介を用いた中国料理が楽しめる「虎穴(フーシュエ)」オーナーシェフの小松 仁(ひとし)さん。
「旬はありますが、『丸佳』さんを通してよいはまぐりが入手できれば、通年、メニューにしています。特に鹿島灘産は身がしっかりしていて大きい。うまみをたっぷり含んでいるので、シンプルな料理で楽しんでいただきたいです」と話します。
広東料理をベースに、化学調味料を使わず、素材の魅力を引き出すのが得意な小松シェフ。はまぐりをおいしく調理するコツを伺うと、むき身をまずは蒸し器で蒸すのだそう。
下準備として、耐熱容器にはまぐりを並べせいろなどで蒸しておく。目安は3分30秒ほど。身に均一に火が通っているので、スープや揚げ物を作る際はさっと火を通す感覚でOK。蒸している最中に出てきたうまみたっぷりの汁も、大切に調理に使う。「身から出るだしが無駄になりませんし、食感も損ないません。身の中心がぷっくりして、指で押したときに程よい弾力が出たら、よい火の通り加減です」。
そしてできたスープと揚げ物は、滋味豊かで優しい味わい。はまぐりのジューシーさと甘さを堪能できる逸品です。
はまぐりびと(8)
「虎穴」オーナーシェフ
小松 仁さんはまぐり歴:2009年にこの店をオープンして以来、約10年。
好きなはまぐり料理:うまみが凝縮したスープ。
はまぐりへの想い:はまぐりはそのまま食べて、おいしい素材。できるだけシンプルに、そのよさを生かす料理を心がけている。
虎穴(フーシュエ)住所:東京都中央区東日本橋3-5-16 仙石ビル1階
TEL:03(6661)9811
営業時間:11時30分~14時、18時~
定休日:月曜
ランチ850円~、ディナーはおまかせコース8500円~(はまぐりの料理はディナーのみ)。
※要予約
表示価格は本文に税込みと記載のあるもの以外はすべて税抜きです。
撮影/本誌・坂本正行 取材協力/丸佳、大都魚類、鳥羽市立海の博物館
『家庭画報』2020年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。