人生を楽しむライフスタイルの拠点「豪邸拝見」 第3回(全10回) 人生で成功を収め、社会的な立場が上がっていくと、住まいは、「家族の器」としての本来の機能から拡大し、「社交の場」としての役割も求められるようになってきます。住まいという最も私的な場所にゲストを招くという行為は、それだけでもろ手をあげた最大限の友好の表明。それゆえにゲストとの親密度は一気に増します。心を開き、共通の友人を招いて、家族ぐるみのおつきあいをする──そのことで人生はよりいっそう潤いを増します。住まいを拠点に人生を貪欲に楽しむ人々を追いかけました。ここで養う英気が、次の幸運を引き寄せます。
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── M邸(東京都内)
「生活感をあえて排除したこの空間は、私にとっての別邸です。」とMさん。「そろそろ2次会に行きましょうか」。
Мさんの言葉で、ダイニングで食事を済ませたゲストは、渡り廊下を通って離れのリビングへ。天井までの大窓を2方向にしつらえたリビングは、3.2メートルもの天井高と相まって、非日常な開放感に満ちています。
iPadで「シアタールームモード」をタップすると、3枚の絵の中央が電動で下がり、奥からプロジェクターが現れる。M邸を訪れたゲストがその美しい室内を眺めていると──。ゆっくりと明かりが落ち、大きな窓のある南側の天井からスクリーンがスルスルと降下を始めます。
同時に、向かいの壁に配したアートの背後から現れたプロジェクターが白いスクリーンに映像を映し出すと、スピーカーからの迫力あるサウンドが部屋中に広がり、リビングは本格的なシアタールームへと様変わり。
初めてのゲストの誰もが感嘆の声を上げる瞬間です。「こうした操作がタップひとつでできるんですよ」と手もとのiPadを見せるMさん。
壁のアートは井出廣和さんに特別に描いてもらったもの。Mさんが一級建築士事務所「アイケイジー」の池貝知子さんに家づくりを依頼したのは、今から約7年前。その際に希望したのが、離れのある2層形式の建物でした。
「家相的に見て、そのほうがいいようです。それならば、離れは生活感を排除して、子どもの頃から好きだった音楽や映像を楽しむための“別邸”にしようと。住んでみての感想? いやあ、飽きない家ですよ」。
家の中に別邸があることで、自宅にいながら気分転換ができるのだと笑います。先進の機能を搭載したおもてなし空間は、Mさんが英気を養うパワースポットでもあるのです。
都心のおもてなしは最先端のスマートハウス
M邸の魅力は、ほかにもあります。
実は、この家は環境に配慮したスマートハウス。太陽光パネルで作った電気をリチウムイオンバッテリーに蓄え、停電などの非常時にも電気が使えるようになっているのです。
また、先ほどのリビングや、中庭とつながるダイニングなど、住まいのほぼすべての窓には断熱性能に優れたLow-Eガラスを採用。
御影石張りの中庭。大きなカツラの木は夜のライトアップも美しい。写真/ナカサアンドパートナーズゲストとバーベキューを楽しむという中庭には冬に落葉するカツラの木を植え、四季折々の日差しのコントロールに生かしています。
さらに、来客の多いM邸ではセキュリティにもひと工夫が。
「ダイニングキッチンの壁に取りつけた2台のモニターのうち、1台は住まいの各所を映し出す防犯カメラです。このモニター画像を寝室でも見ることができるんですよ」とMさん。
壁に設置された2台のモニターは、左がパソコンやインターネットなどに対応したスマートテレビ。もう1台が防犯用。写真/ナカサアンドパートナーズモニターを消すと1枚の鏡に。床や造作家具などにウォルナットを贅沢に用いたダイニングキッチンは、上質でシック。モニターの前面に鏡をのせているため、電源をオフにするとその存在が消えるのもユニークな点。これならインテリアを損ねることなく、日々の安心が確保できます。
先進の機能が美しくデザインされた空間づくりに、これからの住まいのあり方がうかがえるようです。
アイケイジー「二子玉川 蔦屋家電」の内装設計や国内外のアワード受賞で知られる一級建築士事務所。代表は気鋭の空間デザイナー、池貝知子さん。 撮影/西山 航 取材・文/冨部志保子 スタイリング協力/山田喜美子
『家庭画報』2020年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。