初夏のハイクレアは、草の甘い香りがいっぱいです。ガードナーたちが毎日、芝刈り機に乗って、城の前の広大な青草カーペットを縦横無尽に行ったり来たりしているからです。
敷地内には真っ白なエルダーフラワーの花が咲きそろい、レディ・フィオーナ恒例のフラワーコーディアル作りが始まるのも、この時期です。夏の前触れを予感させる5月の太陽の下、つば広の麦わら帽をかぶり、ハサミとはしごを持って花狩に出かける彼女の後ろ姿を、愛犬たちが元気に走りながら追いかけていきます。
優雅に香る真っ白いエルダーフラワーの花を摘む伯爵夫人。いつもなら、5月末には全敷地を解放して、恒例のカントリー・フェアが開催されます。ハイクレアの農場をはじめ近隣の農家で構成する農業協同組合の面々が集まり、家畜の品評会、羊の毛刈り競争、クラフトショーなどを催したり、食のスタンドなどが並びます。牧畜や農業関係者だけでなく一般の人々も加わり、おおいに賑わいますが、今年はどうでしょうか。どうやら静かな5月になりそうな予感です。
けれども、こんな時こそ、そっと一人でパフュームの封を開け、ハイクレアの薔薇の香りや、夏草の甘い夏の香りを独り占めする贅沢を、大切に味わいたいものです。
山形優子さんのハイクレア城取材が一冊の本に!
書籍『ダウントン・アビーのハイクレア城に暮らす レディ・フィオーナ』は、万来舎より発売されました。連載でご紹介してきた内容に加え、新たな写真やエピソードも盛り込まれています。是非、ご覧ください。
山形優子フットマン/Yuko Yamagata-footman フリーライター 上智大学文学部社会学科卒業。カルフォルニア州立大学心理学科でヒューマニスティック・サイコロジーを専攻、修士課程修了(ロータリー財団奨学生)。新聞記者を経てフリーライターに。在英約30年。イギリス人男性と結婚、3人の娘の母。著書に『憧れのイングリッシュガーデンの暮らし』(エディシォンドゥパリ)、『なんでもアリの国イギリス なんでもダメの国ニッポン』(講談社文庫)他。 構成/樺澤貴子