きものの文様 きものに施された美しい「文様」。そこからは、季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、古来の社会のしきたりを読み解くことができます。夏の文様を中心に、通年楽しめるものや格の高い文様まで、きもの好きなら一度は見たことのある文様のいわれやコーディネート例を、短期集中連載で毎日お届けします。
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魚(さかな)
鯉の滝登りを思わせる勢いのある型染めの文様。中国では魚を「ユィ」と発音し、「有余(有り余る)」と同じ発音であることから、富と幸福のシンボルとされてきました。また、魚はたくさんの卵を産むため、子孫繁栄の吉祥文様として扱われてきました。古くは蓬莱(ほうらい)の島を行き交う魚が、正倉院(しょうそういん。正倉院文様の記事は
こちら)の宝物や平安時代の装飾品に見られます。文様としては、鯉(こい)、鮎(あゆ)、鯛(たい)、金魚、河豚(ふぐ)、蟹、海老などが主流です。
※蓬莱(ほうらい)とは、古代中国で東の海上(海中)にある仙人が住むといわれていた仙境のひとつ。
※正倉院(しょうそういん)とは、奈良時代に建立された東大寺の大蔵(朝廷の倉庫)。魚文(うおもん)
魚を文様化したものの総称です。単独で用いられるほか、多くは波や海草など海に関連したものと組み合わせて表現されます。2匹の魚を向かい合わせた双魚(そうぎょ)文は、中国の伝統的な文様のひとつです。写真は訪問着に施された魚文で、海中を泳ぐ魚の群れを表現したものです。
鯉(こい)
夏の気軽な外出に
伝統的な鯉文様をあしらった型絵染めの絹紅梅(きぬこうばい)は、浴衣の次に選びたいきもの。ざっくりとした藍染めの帯を合わせてカジュアルに。鯉を文様にしたものです。中国では竜門という急流を登った鯉は、やがて龍になるとされます。そのため、出世魚として古くから尊重されました。文様では荒波の間を勢いよく泳ぐ姿が描かれ、波間の鯉、鯉の滝登り、鯉尽くしなどがあります。
荒磯文(ありそもん)
波間を踊る鯉の姿を表した文様で、「あらいそ」とも読みます。名物裂(めいぶつぎれ)に見られる有名な柄で、緞子(どんす)や金襴(きんらん)・銀襴(ぎんらん)などに織り出され、中国明代(みんだい)の作といわれています。このほか、波の打ち寄せる荒磯に、岩や千鳥をあしらったものも荒磯文と呼び、岩と松を組み合わせたものは荒磯松文といいます。
※茶の湯の世界では、わび茶の大成者である千利休(せんのりきゅう)など著名な茶人が名品と認めた道具を名物(めいぶつ)と呼ぶ。名物裂(めいぶつぎれ)とは、これらの茶器の仕覆(しふく)や袱紗(ふくさ)などに用いられた裂(きれ)のこと。めだか
めだかは日本に生息するもっとも小さな淡水魚です。単独で文様化されることは少なく、水文や水草などと一緒に水辺文様のひとつとして表現されます。現在は春のモチーフとして、趣味の染め帯などに用いられています。写真はめだかに
葦(あし)を添えた夏帯です。
【向く季節】
通年、春、夏
きものの文様
今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができます。きものを着る場合判断に迷う格と季節が表示され、こんな場所にお出かけできます、とのコーディネート例も紹介しています。見ているだけで楽しく役に立つ1冊。