7月 水沢駅の南部風鈴
文/細野晴臣
風鈴はそよ風に似合う。昔は夏になると家の軒先には花のような一輪の風鈴が吊り下げられ、暑さを凌ぐには力不足のそよ風を、その涼しげな音で助けていた。
日本人はあのような儚げな音が好きなのだ。無数の風鈴を吊り下げて「風鈴屋」の屋台が通り過ぎていくと、息苦しい夏も情緒あふれる世界に変貌する。そんな記憶が愛おしい。
だが日本人の耳が変化してしまった。都市の中の密やかな音が騒音に飲み込まれ、風鈴の音さえうるさいと苦情が来るらしい。マンション住まいの自分の場合もつい遠慮してしまう。
浅草辺りで買った風鈴はしまわれたままだ。それでも風鈴を見かければつい買ってしまう。ガラスの風鈴はそれぞれ造りが違うので、好きな音を選ぶのも楽しい。
東北の旅でも南部風鈴と南部せんべいは欠かせない。鉄の風鈴は寺の鐘のミニチュアだ。奥深い浄土の音がする。
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細野晴臣(ほその・はるおみ)
音楽家
1947年東京生まれ。1969年「エイプリル・フール」でデビュー。1970年「はっぴいえんど」結成。73年ソロ活動を開始、同時に「ティン・パン・アレー」としても活動。78年「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」を結成、歌謡界での楽曲提供を手掛けプロデューサー、レーベル主宰者としても活動。YMO散開後は、ワールドミュージック、アンビエント、エレクトロニカを探求、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。
公式サイト
www.hosonoharuomi.jp 出典・音響提供/環境省「残したい“日本の音風景100選”」 写真/毎日新聞社提供
※こちらの音は、公益社団法人日本騒音制御工学会ホームページ「日本の音風景100選/サウンドライブラリ」からも聴くことができます。
『家庭画報』2020年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。