きものの文様 きものに施された美しい「文様」。そこからは、季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、古来の社会のしきたりを読み解くことができます。夏の文様を中心に、通年楽しめるものや格の高い文様まで、きもの好きなら一度は見たことのある文様のいわれやコーディネート例を、短期集中連載で毎日お届けします。
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秋草(あきくさ)
秋の七草に数えられるのは、桔梗(ききょう)、萩、女郎花(おみなえし)、撫子(なでしこ)、葛(くず)、芒(すすき)、藤袴(ふじばかま)の7種類の植物です。これに、竜胆(りんどう)や菊など、秋の野原に自生して咲く草花を取り混ぜて文様化したものを、秋草文様といいます。七草の中から、桔梗や萩など1種類だけを用いて秋草文様と称することもあります。
秋草が寄り添うように咲いているさまは風情があり、移ろいゆく時のはかなさや人生の無常観を感じさせてくれる日本ならではの文様です。また、残暑が厳しい時期に身にまとうことで、季節感がひと足早く味わえることから、夏のきものや帯、浴衣などに用いられています。
秋草文(あきくさもん)
盛夏の結婚式に
ぼかし染めに桔梗、女郎花、撫子などの秋草文様を描いた絽の訪問着。秋の七草をはじめ、秋の野原に咲く花を組み合わせたもの、あるいは単独で用いたものの総称です。京都・高台寺には桃山時代の写実的で雅な秋草文の蒔絵が残されています。秋の七草を衣装の文様に使ったのもこの時代以降のことです。きものの文様は実際の季節よりも早めに用いるため、秋草文は夏用のきものや帯に使われます。
撫子(なでしこ)
薄紅色の小さな花を咲かせる撫子は、古くから秋の七草のひとつとして親しまれてきました。日本女性を大和撫子と呼んだのは、その清楚で可憐な撫子になぞらえてのことでしょう。写真の帯は、藍染めで涼やかに表現しています。
文様としては鎌倉時代以降、衣装や調度品に使われました。ほかの秋草と組み合わせて用いられるほか、単独でも描かれ、夏の絽や紗のきもの、染め帯などに。
芒(すすき)
食事会に
墨描きで芒文様を単独で表した珍しい絽のきもの。細い芒のライン模様が涼感を誘います。萩や沢瀉(おもだか。文様の記事はこちら)を短冊であしらった帯を合わせて、夏のお洒落を楽しみます。薄とも書き、花穂が出たものは尾花(おばな)といいます。万葉の時代から、神への供え物や魔よけとして用いられてきました。衣装の文様には、単独で表現されることは少なく、ほかの秋草や月、小鳥などと組み合わせて写実的に描かれたものが主流です。
冬枯れの芒に雪が積もった情景を意匠化したものもあり、「芒に
雪文様」といいます。
【向く季節】
夏、秋
きものの文様
今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができます。きものを着る場合判断に迷う格と季節が表示され、こんな場所にお出かけできます、とのコーディネート例も紹介しています。見ているだけで楽しく役に立つ1冊。