連日、外国人観光客で賑わっている明治神宮ですが、
6月は御苑内にある菖蒲田を楽しみに、多くの人が明治神宮を訪れます。パワースポットとして知られる清正井へと続く、曲がりくねった道から眺める花菖蒲……その幻想的な美しさは格別です。
*花ごよみはあくまで目安です。花の咲く時期は前年の天候や直前の寒暖に左右され、前後にずれることがありますので、ご確認ください。
木々の緑に囲まれた明治神宮の菖蒲田。全体が見渡せないほど奥に深く、ゆるやかにカーブした小径に沿って進むにつれ、景色が変わってゆく。丘の上にある四阿から見下ろす花菖蒲も美しい。
連綿と続く品種の改良と保存の歴史
明治神宮の御苑内にある花菖蒲の名所「菖蒲田」は、もともと明治天皇のご意向に沿ってつくられたものです。この地にはかつて井伊家の下屋敷があり、明治維新後、御料地となったのですが、明治天皇は皇后である昭憲皇太后
(しょうけんこうたいごう
)のために、残っていた庭園を御苑に整備することをご発案。その際、一角にあった水田を菖蒲田に改め、新宿御苑や各離宮などから名種珍種の花菖蒲を集められたのです。
明治天皇は御苑の設計にも積極的にご参加になったそうです。曲がりくねった道を奥へ奥へと進むにつれて、周りの森と一体になった景色と花菖蒲の眺めが移りゆくさまは、全容が一望できる通常の花菖蒲園とは異なり、格別の趣。途中には休憩できる四阿
(あずまや
)も設けられるなど、そこここに昭憲皇太后に対する明治天皇のご慈愛が満ちています。昭憲皇太后は御苑を九回ご訪問なさっており、うち六回が花菖蒲が見頃の時期だったとのこと。きっと明治天皇の御心をお感じになりながら、散策を楽しまれたのでしょう。
明治神宮造営当時には
80種あったという花菖蒲は、その後、東京近郊から集めた江戸系品種が加わって、現在では約
150種あり、品種保存のため、一種ごとに
10株ずつ、計約
1,500株が名前入りで管理されています。なかでも花菖蒲愛好家なら見逃せないのが、貴重な「菖翁花
(しょうおうか
)」。菖翁とは花菖蒲の品種改良に生涯を捧げた江戸後期の旗本、松平定朝のことで、菖翁がいなければ、世界に誇る現在のような園芸種は生まれなかったと評されるほどです。
菖翁が生み出した品種は
300種に及ぶといわれますが、現存するのは約
20種。明治神宮では、菖翁が自画自賛したという名花「宇宙
(おおぞら
)」をはじめ、「仙女の洞
(せんにょのほら
)」、「都の巽
(みやこのたつみ
)」など数種類の菖翁花が見られます。