症状だけでは確定できず診断には内視鏡検査が必須
間質性膀胱炎が“謎の膀胱炎”と呼ばれるのは確定診断がつきにくいこともあります。
「間質性膀胱炎によって出現する頻尿、尿意切迫感、尿意亢進、残尿感などは細菌性膀胱炎や過活動膀胱でも起こるため、症状だけで正確に診断することはできないのです」。
世界で統一された診断基準や方法がないのが現状で、上田先生が作成にかかわった『間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドライン』では、確定診断を行う際には、内視鏡(膀胱鏡)検査を必須としています。
内視鏡による新しい診断法を開発し確認しにくい病変も確実に見つける
内視鏡による観察で膀胱粘膜下に“ハンナ病変”と呼ばれるこの病気特有の発赤粘膜または麻酔下で膀胱水圧拡張術(膀胱内に生理食塩水を注入し膀胱を拡張する方法)を行った後に膀胱粘膜からの点状出血を認めた場合に初めて診断が確定します。
「ところが泌尿器科の一般診療では内視鏡検査を実施する時間的余裕がないため、確定診断に至っていない人が多いのが実情です。症状だけで診断されて細菌性膀胱炎や過活動膀胱の治療を受けている場合もあります」。
当然ながら、これらの病気の治療を行っても症状はいっこうに改善せず、困り果てた医師から「年のせい」、「気のせい」といわれ、精神科を紹介されたり、さまざまな医療機関を転々としたりする人も少なくありません。
こうして“難民化”した全国の患者が正しく診断してもらうことを求めて同クリニックをひっきりなしに訪れているのです。
ほかの泌尿器疾患との鑑別をしっかり行い診断を絞り込む
同クリニックでは、このようなケースを含め、頻尿や尿意切迫感、膀胱痛を訴えて受診してくる患者には最初に排尿日誌を記録してもらいます。
「1日8回以上の頻尿があり、なおかつ平均排尿量が150ミリリットル以下の場合、または朝起きてすぐ300ミリリットル程度の排尿をしたときに不快な痛みがあり、その後に頻尿になる、もしくは尿が溜まるたびに膀胱痛がある場合は間質性膀胱炎が疑われます」。
同時にほかの泌尿器疾患との鑑別を行います。
検尿で細菌性膀胱炎の有無を診断し、細菌感染が見つかれば抗菌剤を処方します。また、超音波検査で残尿量を調べ、尿排出障害の有無を確認します。
抗菌剤で細菌が消え、残尿量が50ミリリットル以下になっても頻尿や尿意切迫感の症状が改善しない場合は過活動膀胱を疑います。
「排尿筋過活動の確定診断には膀胱内圧測定(尿道から膀胱に管を入れ、膀胱の圧力を満たす水分量を測り、膀胱の活動性を調べる)が必要です。しかし、この検査は簡便に行えるものではないため、疑いがあるときは過活動膀胱の治療薬である抗コリン剤をしばらく投与し、それでも症状が消えない場合は間質性膀胱炎を疑います」。
排尿障害に特化した診療を展開し、診断のつかない患者とじっくり向き合う
そして、確定診断をするために最終的に内視鏡検査を行います。ここで活躍するのが膀胱上皮の血管を褐色化するフィルターを搭載する「NBI(Narrow Band Imaging)」と呼ばれる内視鏡システムです。
間質性膀胱炎になると膀胱の上皮に新生血管がたくさん出現します。また、ハンナ病変は新生血管の集まりとして認められます。
上田先生はこれらの病変を簡単に見分けられるようにNBIの特徴を生かした診断法を開発し、今では確定診断の決め手となっています。
「間質性膀胱炎は原因不明で治療法も限られています。しかし、正しい診断がつけば対症療法によって症状をコントロールし日常生活を取り戻すことが可能です。年のせい、気のせいといわれても決してあきらめないでください。あなたのつらい排尿トラブルには必ず原因があるはずです」と上田先生はアドバイスします。
次回は、間質性膀胱炎の治療法と日常生活(食事療法)のポイントについて詳しく取り上げます。
間質性膀胱炎の診断基準
【1】頻尿、尿意亢進、尿意切迫感、膀胱不快感、膀胱痛などの症状がある。
【2】膀胱内にハンナ病変または膀胱水圧拡張術後の点状出血を認める。
【3】上記の症状や所見を説明できる他の疾患や状態がない。
膀胱所見に基づく間質性膀胱炎のタイプ
【1】ハンナ型間質性膀胱炎:ハンナ病変を有するもの。
【2】非ハンナ型間質性膀胱炎:ハンナ病変はないが、膀胱水圧拡張術後の点状出血を有するもの。
日本間質性膀胱炎研究会HP「間質性膀胱炎について」を参考に作成