【コラム】歩行と認知機能
歩くのに必要なのは筋肉だけではない──
姿勢を制御する能力、周囲の環境に常に気を配る認知能力が欠かせない歩くときには筋肉や運動神経を使います。また、段差を見つける、音やにおいに注意を向ける、滑りやすさを感じ取るというように視覚、聴覚、嗅覚、触覚を無意識に働かせています。
体を動かすエネルギーも必要です。このように歩行には多くの要素がかかわります。
加齢によって活動量や食欲が落ち、全身が衰えるフレイル、筋肉量や筋力が落ちるサルコペニア、見えにくさや聞こえにくさなどが生じるとうまく歩けなくなったり、歩行速度が落ちたりします。
そして、歩きながらの会話といった2つ以上の行為を同時に行う能力も低下します。
「例えば、歩行中の高齢者が会話をするとき、足が止まることがあります。これは、歩く動作と話を聞いて理解して返事をする行動を脳内で一度に処理するのが難しいからと考えられます」と原さん。
普段の無意識の動きがいつもと違うときの対応力も下がります。
「停止したエスカレーターを上るとフワフワするのはエスカレーターや歩行に関しての脳の記憶と体の動きにミスマッチが生じるから。高齢者、脳梗塞やパーキンソン病など神経の病気の患者さんでは、このような脳の記憶と実際の体の動きが違うときの脳の補正がうまくいかなくなりやすいのです」(原さん)。
歩行は基本的な生活動作であるだけでなく、全身の健康度を測るバロメーターであることがわかります。