本当の豊かさ宿る「昭和遺産」 第5回(全14回) 世の中は、デジタル化、スピード化が急速に進み、私たちの暮らしはますます便利で快適なものになりました。しかし、はたして私たちは幸せを手にすることができたといえるのでしょうか。私たちの暮らしはどこかで、大切なものを置き忘れてしまっていないでしょうか。義理人情に厚く、おせっかいで、濃密な人間関係に支えられた昭和という時代。どこか不器用でアナログな“昭和”を見つめることで、合理性一辺倒ではない、暮らしの豊かさを再発見していきます。
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蚊帳を吊り、夏布団で涼んだ昭和の情景。現代なら、カーテンやソファカバー、クッション、敷物、寝具、スリッパなどを夏仕様に取り替えたい。布団協力/石田屋 撮影/本誌・成瀬友康夏座敷──住まいの衣替えという発想
涼の知恵
温帯モンスーン気候帯で、高温多湿の日本の夏は、熱帯の国々と同じくらいに暑いといわれます。この暑さをしのぐため古来から日本人は知恵を絞り、工夫してきましたが、その究極の形が「夏座敷」でした。建具など建築を構成する要素を“季節で使い分ける”ことをした国は世界でも類を見ません。「住まいの衣替え」という豊かな発想は形を変えて、次代に引き継ぎたいものです。
建具は替えられなくとも、体にじかに触れる敷物や、ソファカバー、布団を夏仕様に替えるだけで、がらりと涼やかにすることはできます。蚊帳の中で、夏の麻布団で寝た懐かしい昭和の暮らしは、バリエーション豊かな冷感寝具に形を変えて、今に息づいているように思います。
伝統的な京都の夏座敷。網代が涼やかだ。靴を脱いで暮らす日本人にとって、じかに触れる敷物の“肌ざわり”は重要。「日本人には足の裏に美意識がある」といった人もいた。京・富小路 料理旅館・天ぷら吉川にて。撮影/岡崎良一「#昭和遺産」の記事一覧 本誌が考える【昭和遺産】とは、昭和時代に生み出されたもの、もしくは昭和時代に広く一般に親しまれたもので、次世代へ継承したいモノ、コト、場所を指します。
『家庭画報』2020年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。