境内の染井土近くで咲く‘春待門’。透明感のある薄ピンクの花びらがふんわり重なる姿が華麗。
花のお寺に伝わる姫の伝説にも思いを馳せて
奈良には平安時代から伝わる中将姫伝説があり、その生涯を描いた戯曲もたくさんありますが、石光寺にもその伝説の名残があります。
石光寺の境内にある「染井戸」からきれいな水が湧き、中将姫がその水で糸を清めた後、そばにあった桜の木に糸を掛けて干すと、糸が美しい5色に染まったという伝説です。継母に命を狙われ、悲しい運命を辿った姫ですが、最後には極楽浄土に迎えられます。浄土教が極楽の存在をわかりやすく伝えるために広まった伝説ともいわれています。
石光寺は「関西花の寺二十五ヵ所」にも選ばれるほど、一年中花の絶えない美しいお寺です。ボタンやシャクヤクが咲き誇る春は、まさに極楽浄土のような光景が楽しめます。代々花好きなご住職が丹精込めて育てた花を、中将姫に思いを馳せながら愛でて回ると、はるかいにしえの物語が鮮明に目に浮かんでくるようです。
白花の寒ボタンを代表する‘雪重’(ゆきがさね)。繊細な花びらが特徴で、純白の白がとても上品な印象。
まずは、旬の寒ボタン。一株ずつ、腰をかがめてのぞき込めば、そこには旬の華やぎが、優しく、そして誇らしげに待ち構えています。
高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
ガーデニングエディター
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。現在は、種苗会社の会員向け月刊誌のほか、園芸雑誌などの編集に携わる。