「思考停止しないように、この先のことを考えながら、本作のように、史実にもとづいた作品にこれからも挑戦できればと思います」蘇ったピアノの音を聴く。それは、当時の人がそこに蘇るということ
矢川のトラックで連れてきてもらった広島で菜々子は、2年前に他界した祖母が住み、かつては母も暮らした家で写真や古い楽譜などを見つけます。祖母に思いを馳せると共に、母はなぜ広島から出たのか、祖母が菜々子に伝えたかったことは……と自分のルーツをたどる菜々子。
今年は終戦から75年にあたる年。「自分を含めて社会を担っている大人たちのほとんどが戦後生まれになっています」と言うのは五藤監督。でも、現在を生きる大学生の菜々子でも2代、血縁者を遡っただけで当時を知る人たちにたどり着けます。ピアノの音もまだ、人々を魅了し続けています。
「つらいことや考えなきゃいけないことに向き合わないようにして、見ないようにして、口をつぐんで、誰かが決めたことに依存して。それで何もしてくれなかったってキレるのは、ちょっとどうなのって思いますよね。そうじゃなくて、なぜそうなったのか、一緒に考えましょう、一緒に生きましょう。この映画は、まさしくそういう物語で。お母さんがずっと黙っていた気持ちもわかる。おばあちゃんが孫に伝えたかったのもわかる。でも、伝えてしまったら、自分の娘が苦しむこともわかっている。じゃあ……って、答えはないんですけどね。
被爆を乗り越えて蘇ったピアノの音を聴くというのは、当時の人がそこに蘇るということ。それは、例えば100年後の自分の姿でもあるわけで。そういうことを作り手の僕らや観客の皆さんで共有できれば、今は大変な状況下ですけれども、一緒に生きていこうっていう優しく強い思いがわいてくるんじゃないかと思います」
佐野史郎/Shiro Sano
俳優
1955年3月4日生まれ、島根県出身。「劇団シェイクスピアシアター」の創立メンバーとしてキャリアをスタートさせる。唐十郎主宰の劇団「状況劇場」を経て、86年に『夢みるように眠りたい』で映画主演デビュー。99年には映画『カラオケ』で監督も務めた。バンドでアルバムもリリースし、『フジロックフェスティバル』にも出演。『サンデー毎日』にてエッセイを連載中。
『おかあさんの被爆ピアノ』
監督・脚本:五藤利弘
出演:佐野史郎 武藤十夢(AKB48)
森口瑤子 宮川一朗太 大桃美代子 南壽あさ子 ポセイドン・石川 谷川賢作 鎌滝えり
配給:新日本映画社
八丁座にて広島先行公開中
8月8日(土)よりK’s cinemaほか全国ロードショー
公式サイト
http://hibakupiano.comⒸ 2020映画「被爆ピアノ」製作委員会