本当の豊かさ宿る「昭和遺産」 第7回(全14回) 世の中は、デジタル化、スピード化が急速に進み、私たちの暮らしはますます便利で快適なものになりました。しかし、はたして私たちは幸せを手にすることができたといえるのでしょうか。私たちの暮らしはどこかで、大切なものを置き忘れてしまっていないでしょうか。義理人情に厚く、おせっかいで、濃密な人間関係に支えられた昭和という時代。どこか不器用でアナログな“昭和”を見つめることで、合理性一辺倒ではない、暮らしの豊かさを再発見していきます。
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男の子はおもちゃ花火に、小さな女の子たちはもっぱら線香花火に興じて、美しく散る花火に見入る。クーラーのない時代、縁台を持ち出し、外で涼をとるしかなかった。花火で夕涼み 縁台に集う
高温多湿の夏は、「暮らしを外に持ち出す」ことが日本の知恵でした。縁台は、縁側の機能を家具に仕立てたもの。上がり框(かまち)とほぼ同じ高さで、いわば座敷の出張所のような生活空間でした。
夏の陽が落ちると、打ち水をしてここで夕涼み。子どもも大人も縁台を囲んで、花火をしたり、将棋を指したり、ビール片手に世間話をしたり。何くれとなく人が寄りついてくる縁台は、まさに隣近所との「団欒のよりしろ」。昭和の時代は、ご近所との豊かなコミュニティが縁台を中心に確かに築かれていました。
昭和の夏の風物詩、線香花火は今も健在。火をつけた直後の花火はたゆたうように落ち着かず、やがてぷっくりとした深い朱色の大玉になる。にわかに激しく火花を放ち、しまいには柳のような繊細な流線を描いて火玉は小さくなり、ポトリと落ちていく。その様は一編のドラマのよう。人間関係が希薄になったといわれる現代こそ、こうした濃密な人間関係を支える装置はやはり必要です。さしずめデジタル社会の今なら「オンライン飲み会」を演出するネットのデバイスがこの役割を担うのかもしれません。
「#昭和遺産」の記事一覧 撮影/本誌・成瀬友康
本誌が考える【昭和遺産】とは、昭和時代に生み出されたもの、もしくは昭和時代に広く一般に親しまれたもので、次世代へ継承したいモノ、コト、場所を指します。
『家庭画報』2020年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。