英国王室に連なる人々のなかでも、特にカルティエと縁が深く、ドラマティックなエピソードの数々を残したのは、ウィンザー公とシンプソン夫人ではないでしょうか。離婚歴のあるアメリカ人女性と結婚するために英国王の座を辞した出来事が“王冠をかけた恋”と世界中を騒がせた二人ですが、ウィンザー公はカルティエのジュエリーをいくつもシンプソン夫人に贈り、おしゃれ上手として知られた夫人はジュエリーを贈られるたびに、そのジュエリーが引き立つドレスを新調して社交の場に登場し、注目を集めたと言われています。
Nick Welsh,Cartier Collection © Cartier
現在でもカルティエを代表するアイコンの一つになっている“パンテール(豹)”のジュエリーをこよなく愛したのもまた、シンプソン夫人でした。当時のカルティエでハイジュエリー部門の最高責任者を務めていたジャンヌ・トゥーサンが発展させたパンテールのモチーフに、シンプソン夫人は、いち早く注目。1949年にカルティエが制作した写真のブローチを購入しました。まるで手鞠にじゃれかかるかのように、152.35カラットのカシミール産サファイアの珠の上にパンテールが遊ぶ立体的なデザインは、今もなお新鮮です。