『海炭市叙景』
佐藤泰志 著/小学館文庫 619円佐藤泰志さんの『海炭市叙景』は、出身地をモデルにした架空の地方都市「海炭市」を舞台に、この地に生きる人々を描いた群像劇。
お正月をほぼ一文無しで迎え、初日の出を見に山頂へ向かった青年とその妹、恋人を連れて実家に戻った若者、家業のプロパンガス屋を継いだ若社長......。
18の短編は、バブルの時代、その波に乗ることができなかった人々の困難や、彼らが抱える喜怒哀楽を坦々と描きながら、その先にあるささやかな希望を浮かび上がらせる。
『茄子の輝き』
滝口悠生 著/新潮社 1600円会社のお茶汲み当番のやり方、仕事帰りに立ち寄る居酒屋が出す唯一のランチ・メニューの生姜焼き定食、私が大好きなおかっぱ頭の明るい千絵ちゃん......。
滝口悠生さんの『茄子の輝き』は、高田馬場にある「カルタ企画」に中途入社した“私”が語る小さなエピソードが緩やかに連なり、記憶を辿るように描かれる連作短編集。
何気ない出来事、ひととひととのやりとり、そこに流れている時間を描写の妙で読ませる滝口さんならではの語り口が味わい深い。
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『家庭画報』2020年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。