作品を支える、日本各地の珠玉の花と仲間たち
藤野さんの美しきフラワーアレンジメントは、心躍る新しい花やグリーンとの出会いがあればこそ。新たな美を創造し、上質なクオリティで世に送り出す切り花の作り手のかたがたとの交流について語っていただきました。
良質な花を生産するかたがたを多くの人に知ってもらいたい
広島駅から車で5分ほど、段原にある骨董通りに「フルール トレモロ」をオープンして14年が経ちます。周辺は静かな住宅地で、店を訪ねてくださるのはほとんどが地元のかたです。
それでもこの地で花屋を続けていられるのは、日本各地から贈り花やご自宅に飾る花をご依頼いただけるからです。制作した作品や入荷した花の情報をこまめにSNSにアップし続けるうちに、それを見つけて連絡をくださるかたがどんどん増えたゆえです。
インターネットの普及は、花屋のタイムサイクルも大きく変えています。以前は早起きして花市場に行き、せりに参加したり、仲卸に依頼していましたが、現在の私は朝寝坊です。
花市場でせりが行われるのは、毎週月、水、金曜日。その前々日には当日せりにかけられる花の情報がウェブサイトにリストアップされます。それを丹念に調べ、欲しい花を地元の花市場に依頼しておくと、設定価格で入手できます。
早起きの必要はないものの、代わりに毎晩遅くまでせりに出る花をウェブサイトで調べなくてはなりません。同じ花でも生産者さんによって、また入手時期によって、クオリティがかなり違います。リストには花の写真が掲載されないので、新しい花についての情報は生産者さんのSNSで確認します。
そんな作業を繰り返すうちに、自分が好きな花がどのような環境で、どのように栽培されているのか気になってしようがなくなりました。ときには生産者さんに質問をしたり、直接欲しい花を依頼し、広島の花市場を通して入荷したり……。そうしている間に、私のお気に入りの花を生産しているかたがたと交流が生まれ、試作の花を送っていただくようになりました。
生産者さんたちは栽培した花を市場に卸したあとについて、意外にご存じありません。試作の花で作品を制作してお送りすると「自分が生産した花は、こんなふうに使われるのか」と、とても喜んでくださいます。
贈る相手はどんなかただろう、どんな部屋に飾るのだろう、と想像しながら、一つ一つ心を込めて制作する。SNSで作品を発信する際に花名だけでなく、生産地や生産者さんも紹介するのは、その作品を支えるクオリティの高い花をどんなかたが作ってくださるのかを伝えたいと考えるからです。「わー、きれい!」「とても素敵!」と皆さまが褒めてくだると、生産者さんたちの意欲が高まり、さらにクオリティの高い花を生み出してくれることでしょう。
最近では、花の生産現場を訪ねる機会も増え、圃場で力強く育つ花を摘み、その場で作品を作るデモンストレーションなども行っています。
一年中利用する主役花だから、バラは100パーセント国産を使用
バラは栽培者も多く、周年何かしらの品種が出回ります。ありがたいことに、地元・広島にもすばらしいバラを生産してくださるかたがたがいます。
一つは竹原市の「京果園 神田」さん。もう一つは廿日市市の「とくなが園芸」さんです。クオリティが高いうえ、距離的な利点から鮮度抜群のバラを利用させてもらっています。
特に「京果園 神田」さんのバラは、夏の暑い時期でもクオリティが低下することがなく、栽培している株の丈夫さゆえだと感じています。また、「とくなが園芸」さんは育種もされていて、オリジナル品種を30品種もお持ちです。
もう一つ、夏に優れたバラを栽培してくださるのが、長野県上伊那郡の「萬華園」さんです。南アルプスと中央アルプスに挟まれ、夏でも夜温がけっこう下がる環境で栽培されるバラは丈夫に育てられ、輸送の時間にしおれることもなく、鮮度を保った状態で届きます。国内に優れた栽培者がいるお陰で、輸入のバラは使うことがありません。
頼りになる冷涼な気候の生産地
暑い時期の制作を支えてくれるのが、北海道や長野県など冷涼な生産地です。花合わせのアクセントに欠かせない青い花では長野県飯山市の「梨元農園」さんが生産するルリタマアザミが大活躍。ブルー系のバリエーションが豊富なデルフィニウムは、夏は北海道で生産されます。
また長野県小県郡青木村の「フラワーファーム沓掛」さんが生産するダリアは夏でも美しい花色で惚れ惚れする仕立てです。
庭で摘んだような雰囲気に仕上げるのに必須であるハーブやリーフ類、野原に咲くような草花は、今だに流通量が多くないのですが、そういった花材の貴重な担い手のひとりが、長野県上伊那郡の「片桐花卉園」さん。
個性溢れるアルストロメリアの生産で注目されていますが、一方で、枝ものや素朴な草花を取り混ぜた「カタギリーフ」というミックスを出荷されていて、ほかでは得がたい魅力です。
冷涼地ではありませんが、千葉県南房総市の「折原園芸」さんにもハーブやヒマワリでお世話になっています。
ほかにも佐賀県藤津郡太良町の「明日香園」さんの色鮮やかなケイトウ、また、つぼみのまま出荷するという斬新なスタイルでガーベラの概念を覆した静岡県牧之原市の「アドアー フローカ」さんなど、多くの生産者さんに支えられて制作を続けていられると、常日頃から感じています。
機会があれば、冬から春の花もまたたっぷりご紹介したいと思います。
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