エンターテインメント

坂本龍一さん【編集者が見た素顔】映画「Ryuichi Sakamoto: CODA」公開

2017.11.29

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■思いがけない闘病――中咽頭ガンと闘う


こうして多方面で活躍していた坂本さんが、2014年7月に中咽頭ガンであることを公表、全ての活動を中断。衝撃が走った。1年近くの闘病の間、ファンは気をもむばかりで手をこまねくしかすべがなかった。映画では、時々水を口に含む場面が映し出される。「唾液がこれまでの半分くらいしか出ないので、水を含まないと」。
幾分痩身になった坂本さんは相変わらずスタイリッシュで傍目には病後とは思えないが、たくさんの錠剤を飲む場面もある。

■そして今、 音を紡ぐ



ニューヨークの街や森で「街の音」―――それは常人には雑音としか思えないような「音」なのだが、坂本さんには、無数の音符に聴こえているらしい。


病気になられる前から「森の音」も録音して回り、ニューヨークの郊外や日本の森林の木々からも採取した「音」を紡ぐように「音符」に置き換える作業をされてきた。
映画の中では北極圏のグリーンランドの氷穴の「氷が解ける音」、氷原に穴をあけたわかさぎ釣りのようなスタイルで紐に録音機を付けて穴の中に下ろし、氷層下の水の流れの音を採っていた。「音を釣っている」と楽しそうに。それらが画期的な新作のアルバムに集約され今年、『async』をリリース。

坂本さんの40年にも及ぶ音楽活動の中でいくつもターニングイントがあったという。「そこには、内外の出来事に反応して柔軟に変化していく姿と、一貫して音を探求していく変わらない姿が共存している。」とパンフレットにある。その中でこの映画の監督も着眼した大きな変化とは

「テクノロジーに頼る現代人の営みが、自然環境を蝕み、人間の生き場所をも奪ってしまうことへの悲しみと憤りだろう」。


それは被災したピアノへと回帰する。「調律から外れた音を、自然に戻った音だと感じるに至り……」、ご自分の音楽に取り入れる心境になったという。

そして今、ニューヨークの自邸のベランダでものを叩く音、擦る音、雨、鳥の鳴き声、廃墟の音、町の雑踏の音などを集める姿が映し出される。

文明に毒されて力なく生きる現代人―――何も気づかずに蝕まれていく私たちの心に優しくもぐさりとくさびが打ち込まれた。

文・島本公子(『家庭画報』編集部 )

坂本龍一/Ryuichi Sakamoto

音楽家
1952年東京生まれ。78年にソロデビュー。同年、「YMO」を結成。『戦場のメリークリスマス』、『ラストエンペラー』の映画音楽で数々の賞を受賞。90年よりニューヨーク在住。
ⓒKazuko Wakayama

『Ryuichi Sakamoto: CODA』


監督/スティーブン・ノムラ・シブル 出演/坂本龍一 2017年 アメリカ・日本合作 102分 11月4日(土)より、角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開中

http://ryuichisakamoto-coda.com/

©2017 SKMTDOC, LLC 配給:KADOKAWA
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