《太陽の中心への探査》2017年 Courtesy of the artist and PKM Gallery, Seoul © 2017 Olafur Eliasson光を見つめ、霧に触れ、環境に想いを巡らす
ナビゲーター・文/林 綾野透明感があって、あたたかくて、キラキラ輝く色とりどりの光。思わず駆け寄りたくなる居心地の良い空間が広がる。
《太陽の中心への探査》は、エリアソンが2017年に太陽の存在を抽象化して表現したという作品。
力強く、優しく、不可欠だけれど、触ることも近づくこともできない太陽。その大きく豊かな存在感を作品を前に私たちは再認識する。
ガラスでできた複雑な多面体の中に光源が2つ。1つは円を描くように回っている。光と光源を動かすために使われているのはソーラーパワーだ。
エコロジーをテーマとするエリアソンにとって、作品をどう作るかは重要な要素の一つとなる。
《サステナビリティの研究室》Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles ©2020 Olafur Eliasson日本で10年ぶりとなる本展のコンセプトはサステナビリティ(持続可能性)。温暖化をはじめ私たちは地球環境の大きな変化に直面している。
エリアソンは、これから生きていくために生活のシステムを考え直すこと、物の見方を変え、未来を再設計する必然を作品を通して語りかける。
《溶ける氷河のシリーズ1999/2019》(部分)2019年 Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles ©2019 Olafur Eliasson《溶ける氷河のシリーズ1999/2019》は、この20年間に地球に起きたことをはっきりと示している。
アイスランドの同じ地点で、1999年と2019年に撮影した写真を見比べると温暖化で氷河が半分ほど溶けていることがわかるだろう。
一方、新作《ときに川は橋となる》は、スポットライトが水面に反射し、それが頭上のスクリーンに映し出されるという作品。水の揺れに伴って移ろうイメージに、絶えず変化、流動する世界が投影される。
《ときに川は橋となる》2020年 Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles ©2020 Olafur Eliassonどの作品も示唆的でありながらも美しい。エリアソンの洗練された作品世界に触れると感覚が研ぎ澄まされ、五感が冴え渡ってくる、そんな気がするから不思議だ。
会場にはデジタル技術が使われたものはほとんどなく、ガラスや鏡を使い、光の重なりや反射を駆使した作品が並ぶ。見方や使い方を工夫することで表現は無限に広がっていく。
世界の見つめ方を少し変えれば、もっと前向きに歩んでいける道があるのかもしれない。深刻なテーマと向き合いながらもそんな予感に少しわくわくするのは私だけだろうか。
林 綾野(はやし あやの)キュレーター。美術との新しい出会いを提案するため、画家の人生や食について研究している。ゴッホやフェルメールなどを紹介した『絵本でよむ画家のおはなし』シリーズなど著書多数。 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』
《ビューティー》1993年 Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin;Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles ©1993 Olafur Eliassonオラファー・エリアソンは1967年生まれのアイスランド系デンマーク人アーティスト。展覧会では、光や水、霧などの自然現象を新しい知覚体験として再現した作品が楽しめる。環境負荷の少ない素材や形状を研究した《サステナビリティの研究室》などの展示も。
東京都現代美術館〜2020年9月27日まで
休館日:月曜、9月23日(9月21日は開館)
入館料:一般1400円(税込み)
ハローダイヤル:03(5777)8600
URL:
www.mot-art-museum.jp※土日祝・会期末の混雑時は展示室への入場制限あり。 表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/白坂由里 撮影/川瀬一絵
『家庭画報』2020年9月号掲載。
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