スコットランドの首都、エジンバラから車で約2時間。「カンボ・カントリーハウス&エステート」は北海の海岸線沿いにある。水平線に沈もうとする太陽の最後の輝きに照らされたロマンチックな景色は、350年以上前から変わらない。敷地は広大で、表通りから邸宅まで車でも5分はかかる。バーネットの名著を彷彿させる壁に囲まれた庭
ようこそ!「秘密の花園」へ
フランシス・ホジソン・バーネットの名著『秘密の花園』で、主人公のメアリーが土の中に埋まっていた鍵で、古びた木製の扉を開けるとき、どれほど心をときめかせたことでしょう。
庭を囲むレンガ壁にはいくつか扉があるが、どれも小さく『秘密の花園』の描写そのもの。扉の上に重なるレンガから、壁が相当高いことがわかる。四方を高い壁に囲まれ、外からはまったく眺めることができない庭。イギリスには貴族の邸宅の多くにこのような庭があり、ウォールドガーデンと呼ばれています。もともとは、そこに住まうかたがたの食事をまかなうための菜園で、強い風や害を及ぼす動物の侵入を防ぐ目的で、高い壁で囲ったのだそうです。
「カンボ・カントリーハウス&エステート」にもこの伝統的なウォールドガーデンがあります。2017年に一般公開されるやいなや、イギリスでは大きな話題になりました。
この庭のヘッドガーデナーは、敷地全体の植物管理を担当しているエリオット・フォーサイスさん。いま、新しい潮流として世界に広まりつつある「ナチュラリスティック・ガーデン」(宿根草をメインにした自然と響き合う庭)を取り入れつつ、エリオットさんならではの人を飽きさせない工夫が詰め込まれた庭は、瞬く間に高い評価を得ました。
壁に囲まれてはいるが、中は見晴らしのよいデザイン。開放感を損なうことなく、植物の色彩やテクスチャーを生かして区切る工夫が随所に。さあ小さな扉を開け、庭を散策してみましょう。まず驚くのはその広さです。約1万平方メートルの庭が一望できることに感嘆!。これだけ広いと壁や建物などで区切るのが一般的ですが、ここは視線を遮るものが何もありません。
しかし歩いていくうちに、ツゲの低いヘッジ(垣根)やボリュームのあるシュラブ(低木)といった植物で巧みに区切られ、景色が変化していきます。
庭の中央を横切るように流れる小川。奥にあるあずまやは日本の茶室をイメージしてデザインされたもの。小川のほとりにはセリ科のダウカス(レースフラワー)など、水を好む宿根草が植えられ、ナチュラルな景色に。なかでもアクセントになっているのが、庭の中央を横切る小川で、閉ざされた庭であるウォールドガーデンには珍しいスタイルです。縦に進めば、100メートル以上ある美しいロングボーダー、横に進めば、切り花用のガーデンや野菜を美しく配置したポタジェ、バラの小径、グラスガーデンと、次から次へと異なる庭が展開し、わくわくする気持ちは途切れることがありません。
庭の左側には壁に突き当たるまで100メートル以上のロングボーダーが続く。ゲラニウムやサルビアのブルーに、シャスターデージーの白、カライトソウのピンク。派手さはないが、ナチュラルな花色を眺めながらの散策が楽しく足取りも軽やかになる。どの宿根草も大株に育ち、オープンのかなり前から土壌の整備や、植え付けなど入念な準備をしていたことがうかがえる。表通りから入ると、まず右手に現われるのがカンボ・ガーデンズ。邸宅とは別に運営されている。