伊坂幸太郎 著/集英社担任教師に対しても、おかしいことはおかしいと意見する転校生の安斎。教師への嫌がらせで、授業中に缶ペンケースを机から落とす騎士人(ないと)たちに対抗しようと、ある作戦を実行する福生と将太。考え、行動する小学生たちが、先入観を覆してゆく様を描いた5つの短編集。
ナビゲーター/春風亭一之輔(しゅんぷうてい いちのすけ)小学生を主人公にした5つの短編は、それぞれ独立した話ですが、通して読むと、つながりが感じられます。そこにあるのは、小説を通じて先入観や偏見、思い込みをひっくり返したいという著者の考えでしょう。
どの話も、きっとこうなるだろうという読み手の想像の逆をいくので、最後まで落ちがわかりません。
それは著者の、読み手に対する、先入観を持たないでくれよというメッセージで、おもしろくて一気に読みつつ、私もついつい先入観で人に接していないかと、自身を省みるところがありました。
たとえば子どもに対してもこうあるべきとか、この年だったらこのくらいのことしか考えていないだろうとか。
もうそういう時代じゃないとわかっているのに、男の子だから女の子だからと、そういう見方をしてしまうのは、決めつけてしまったほうが、手間が省けて面倒じゃないという気持ちの表れなのかもしれません。
そういう意味で、生徒を自分の想定するレールに乗せようとする「逆ソクラテス」の久留米先生は反面教師でしたね。
師弟関係でいえば、弟子は師匠に対して何でもイエスといって逆らいません。けれど、彼らが心の奥で何を考えているか。
上っ面で判断せず、こちらが歩み寄ろうとしなければ、そこで壁ができてしまうので、そういう思い込みは、師弟双方で崩していかなければだめだろうと。
いいなと思ったのは「非オプティマス」の久保先生の“重要なのは評判だよ”ということばです。
噺家になってすぐ師匠から、悪いことをしたらすぐに広まる、自分が機嫌よく生きていれば、周囲もそういう目で見てくれるものだといわれたことを思い出しました。
小説に登場するのは普通の子どもたちなので、こんなことあったよなあと、自分を重ね合わせて読むことができます。
その一方で、YouTuberの立ち位置にリアリティがあるように、今的な話が適宜盛り込まれているので、幅広い年齢層が読める本だと思います。
現実の世界で出くわしそうもない人が1人だけ登場しますけれど、その彼も、最後に救われるところにほっとしました。
細部の描写にもリアリティがあるし、小中学生が読んで共感する部分や、感情移入できるところもあるので、中学生の長男がどう読むか、すすめてみたいですね。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい いちのすけ)
単独21人抜きでの真打昇進を果たした、人気・実力ともに若手真打No.1の落語家。ラジオ出演、新聞・雑誌での連載など幅広く活躍。DVDBOOK『 春風亭一之輔 十五夜』が好評発売中。「#今月の本」の記事をもっと見る>> 取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大見謝星斗
『家庭画報』2020年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。