美容は生き方を変える。佐伯チズという人生

[追悼特集]美容は生き方を変える
佐伯チズという人生

佐伯チズさん
美容家。1943年生まれ。外資系化粧品会社を定年退職後、「ひとりでも多くの方をきれいにしたい」という思いから、エステティックサロン「サロン ドール マ・ボーテ」を開業。出版した著書の累計発行部数は500万部を超える。美容だけでなく、食文化や生き方まで女性たちの支持を集めた。2020年6月、ALS(筋萎縮性側索硬化症)のため76歳で永眠。

正しいお手入れをすれば、何歳からでもきれいになれる―。

美容に携わる人の間では、会社員時代からすでに「有名人」でした。完璧な肌知識や緻密な美容理論、分け隔てなく接する気さくな人柄、愛情があるからこその歯に衣着せぬ物言い、何より思わず息を呑む美肌。存在そのものの説得力に、誰もが魅了されていたのです。

やがて、化粧品会社を定年退職した佐伯さんは、自宅の一室でサロンを開業するとともに、それまでの経験や知恵をもとに、初の著書を上梓。『頼るな化粧品!』。タイトルどおり、誰もが信じて疑わなかった美容の「常識」をことごとく覆し、肌の気持ちに寄り添ったお手入れを説いたこの本は、たちまちベストセラーになり、美容業界に革命を起こしました。

その後の活躍ぶりは言わずもがな。数多の著書を始め、テレビやラジオ、雑誌や講演などを通して「ひとりでも多く」という夢を叶えていったのです。

どん底から這い上がった経験が生んだ「信念」

じつは佐伯さんは、肌の「どん底」を知る人。小誌初登場の2006年1月号で、佐伯さんはこう語っています。

「私は42歳で最愛の主人を病気で亡くしました。あまりのショックで肌がボロボロになり、42歳とはとうてい思えないおばあさんのような肌になってしまったんです。しかし、その後一念発起し“思いを込めて”スキンケアに取り組むことを決意……。その結果、3年たった頃には、見違えるような美肌を取り戻すことができたんです。“思いを込めれば肌は変わる”ことを身をもって体験しました」。

私が変わったのだから、皆も変われる。いや、私が変えてみせる。きれいが人生を上向かせるという揺るぎない信念のもとに発せられる言葉は強く深く、その端々には、常に優しさと愛が漲っていました。

エイジレスな美しさを目指す佐伯流。それは、目から鱗が落ちる肌磨き法であり、体の芯から健やかさを創る食事や運動であり、まわりをも幸せにする立ち居振る舞いであり、心を潤わせる丁寧な暮らしぶりであり……。どれも簡単で基本的なことながら、誰もがそのとおりに行うだけで表情が華やぎ、日常が色づくのを感じたはず。そう、すべては、「私」を輝かせなさいというメッセージにほかなりません。

「自分らしく生きるのよ」。自分らしく生きた佐伯さんの力強い言葉は、時を超えて心に響きます。もう一度肝に銘じたいと思うのです。誰のためでもなく自分のために肌を愛そう、と。