美容は生き方を変える。佐伯チズという人生

きれいは内面から生まれる
愛情豊かに、「美心（びじん）」育ての極意

佐伯さんが愛した白のカサブランカ。365日欠かさない花やグリーンの鉢ひとつひとつに愛情深く水をやるのが朝の儀式。

「見た目は内面から」を
体現している人

連載や特集の取材は、主に、銀座の中心にありながら喧騒を忘れさせる「サロン ドール マ・ボーテ」や、飛行機も新幹線も船も車も行き交うのが窓から見える都会のオアシスのような自宅と、佐伯さんのこだわりが感じられる場所で行われました。

整然とした清潔な空間、柔らかい光と風、心地よい香りを纏った空気、そして、大好きなカサブランカが飾られたテーブル、季節を感じさせる器でふるまわれる、茶菓子にお茶……。スタッフひとりひとりを気にかけ、「忙しいんでしょう？」「ちゃんと食べてる？」と、手早く食事を作り、「さあ、召し上がって」ともてなしてくれることもありました。

佐伯さんは、心も暮らしも、曇りもない生き方をすべて見せることで、美の真髄を教えてくれた人。見た目の美しさが内面から生まれるという真実を、身をもって証明した人でした。

唯一無二の美しさとは、曇りなく生き抜くこと

2007年には、連載「今日から女磨き」がスタート。多岐に及ぶテーマはすべて、何気ない日常に真摯に向き合い、愛を注ぐ大切さを説いたもの。大人にとっての気づきと学びが、無限にありました。

たとえば「整えること」。「鏡は教師。ものは言わないけれど、問題点を教えてくれる教師なのです」と言う佐伯さんは、肌や体型の現実を知ったうえで、自分自身の意識と努力で整える重要性を教えてくれました。加えて、「服のコーディネートもすべて前夜に。予定に合わせて持ち物から靴、ストッキングに至るまですべて整えて」おくことが、朝の時間を優雅に楽しみ、一日を豊かに過ごすためのコツと教えてくれました。

たとえば「装うこと」。若さを保つ秘訣に「足もとの緊張感」を挙げ、「ヒールがある靴は背筋も、気持ちもしゃんと伸ばしてくれます」と語っています。何十年とかけて集めてきて、100足以上はあるという靴すべてに思い入れを持ち、丁寧にケアをして、その日の予定やファッションに合わせて足もとのお洒落を楽しんでいた佐伯さん。いつどこであってもいつもおろしたてのようにきれいな服を、ときに凜と、ときにエレガントに着こなす姿は、年齢を重ねる格好よさを語り出していました。

たとえば「続けること」。歯を磨いたり顔を洗ったりするのと同じように習慣にしている柔軟体操を、「大変なことをたまにするより簡単なことを365日続けることが大切」ときっぱり。「“一夜漬け”では美しさは宿りません」と厳しく語り、ローションパックや耳もみ、手もとのケアなど小さな積み重ねが大切であり、それがやがて「美貯金」になって、美のオーラになると断言しています。

また、香りとのつきあい方や四季のしつらい、美味の取り寄せなど「もてなすこと」を誰よりも大切にしていたのも佐伯さん。もてなしが大人の余裕の表れであることを私たちは知りました。そして、何より「慈しむこと」が美しさの基本であることも。植物も肌も、まわりも自分自身も、愛情を注げば、きれいが巡り、きれいが続く、と佐伯さんは言いました。きれいの可能性が無限であることを教えてくれたのです。

目に見えることも見えないことも。曇りなく生き抜く「美心」が唯一無二の「美人」を創る……。これこそが、佐伯さんがくれた一番のメッセージに違いありません。

まわりの人や生き物に愛情を注いでいると、
自然と心が豊かになり笑顔が生まれます。
笑顔は何にも勝る宝。
笑顔の数だけ、美肌へと近づいていきます。

『家庭画報』2007年12月号より
感謝の気持ちを表現するお礼状を季節ごとにファイリングし、ポチ袋も何かのときに備えいつもバッグの中に。

「美しくなろうとするとき、他人の意見は参考になりません」、と時に厳しい言葉を呈することも。「鏡が教えてくれることは真実」と現実と向き合う大切さを語りました。

佐伯さんに書いていただいた色紙には、五感を豊かにすることが「美心」を育てるとのメッセージが。好奇心を忘れず、美しいものに日々触れることの大切さを、繰り返し教えてくださいました。