願いは、みんなが楽しく暮らせる社会をつくること
松岡 最後にお尋ねします。先生が生きものとしていちばん大事にされていることは何ですか。
中村 本当に自分が納得できる社会を子どもたちに渡すことです。私が小学校4年生のとき、日本は敗戦国となり、食べるものがない生活を送りました。食べたくても、日本中が食糧難だったんですね。
ですから、私はこれからの人たちに決して戦争が起こることのない社会、みんながおいしいものを食べられて、楽しく暮らせる社会を渡したい。そう願いながら、ずっと生きてきました。
松岡 日本は世界でも数少ない、戦争をしないことを宣言している国です。そして終戦から75年、戦争をしていません。
中村 それがここ数年、心配な状況にありますよね。でも、戦争はしないと決めたんですから、守らなければなりません。それは声を大にしていいたいです。
「自分が納得できる社会を子どもたちに渡したい。今のままでは渡せません」──中村さん
中村 私は同時に、不登校や虐待など、子どもたちがつらい思いをする話が増えていることにも胸を痛めています。日本は物質的には豊かになったのに、どこかおかしくなってしまったと感じています。
ですから、今のままの社会では渡せない。子どもたちに喜んで受け継いでもらえる社会にしてから渡したい。そのためにこれからも発信していきます。
松岡 素晴らしいです。先生、地球の生きもののため、あと100年は生きてください。
中村 そんな!(笑)私は生物学者ですから、寿命というものを知っているんですよ。
松岡 ではせめて、先生が納得する社会に変わるまで、ぜひお元気でいらしてください。
中村桂子さんより~
対談を終えて
対談場所は眺めのいい宴会場の一角。テーブルに感染予防のパーティションを設置して行いました。松岡さんが、普段はまったく関係のないでしょう「生命誌」について、あらかじめ資料に触れ、理解なさったうえで対談に臨んでいらっしゃることがよくわかり、素晴らしいかただと思いました。
それにお応えしなければいけないという気持ちになり、熱が入ってしまいました。相手をそのような気持ちにさせるかたなのかなと、帰宅後そんなことを考えました。
対談をしている間は本当に楽しかったです。オリンピックは、難しい問題をたくさん抱えています。
この時期にやってよかったという形を工夫し、世界に発信できると日本が評価されると思いますので、松岡さんのようなかたが、具体的な提案をなさってくださることを期待しています。
撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/大和田一美〈APREA〉(中村さん)、井草真理子〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子 撮影協力/ホテル椿山荘東京
『家庭画報』2020年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。