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今も息づく福澤諭吉のDNA 。各界のリーダーに聞く「福澤の教え」

2020.10.06

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今、この時代を切り開く生き方と言葉「福澤諭吉のすすめ」 最終回(全7回) 明治維新の大転換期。当時は、アジアの国々は西洋列強に蚕食され、日本も植民地化されかねない、未曽有の国難の時代でもありました。そして今──私たちは100年に一度といわれる変化の渦中にあります。この難局に私たちはどう立ち向かうべきなのか、その答えを変革期の偉人・福澤諭吉の言葉と生き方に求めていきます。前回の記事はこちら>>

今も息づく諭吉のDNA
各界のリーダーに聞く「福澤の教え」


息子や孫、塾員らに囲まれる福澤諭吉
息子や孫、塾員らに囲まれる福澤諭吉。明治28年。(写真/慶應義塾福澤研究センター)

福澤諭吉はキャッチコピーづくり名人でした。自らの教えや考えを嚙み砕いたわかりやすい言葉に託し、広く世間に伝えようとしたのです。


伝わらなければ意味がない、そう考える合理の精神がありました。そして、その思想は、時を超え、今も確実に日本社会に脈々と受け継がれています。

福澤を敬愛してやまない、慶應義塾の卒業生にその教えを伺いました。



各界のリーダーに聞いた質問


(1)福澤諭吉の「言葉」、「教え」に関して好きなものは?
(2)福澤諭吉の考え方に影響を受けていると思われる点。
(3)今こそ生かすべき福澤諭吉の言葉・考え方とは?




独立自尊
福澤諭吉「独立自尊」墨書。(所蔵/慶應義塾図書館)

【独立自尊】
千住真理子さん(ヴァイオリニスト)


(1)「独立自尊」の精神を幼い頃から教えられて育った。

(2)人のために、世の中のために、動き働きなさいという教えは、そのまま私をボランティア活動へと駆り立てた。演奏することそのものも、中心は聴衆にあり、聴く人のために弾く、という根本は、福澤諭吉先生の教えにある。

(3)社会の流れに流されて従う傾向が強い日本で、何が正しいか、自分はどう行動するか、という日常を自分自身に誠実に考えて行動することが、福澤イズムだと考える

誰かに無考えに従うのではなく、一人ひとりが、自分自身と向き合うことによって、世の中が正しい方向へ進むように感じる。それこそが福澤先生の教えだったように思う。

千住真理子(せんじゅ・まりこ)さん
慶應義塾大学文学部哲学科を卒業後、指揮者故ジュゼッペ・シノーポリに認められ、1987年フィルハーモニア管弦楽団定期演奏会でローマデビュー。2020年にデビュー45周年を迎えた。


『文明論之概略』
福澤諭吉『文明論之概略』。西洋文明の本質を大局的に論じ、日本の文明化の必要性を説いた。(写真/慶應義塾福澤研究センター)

【馬鹿不平多(馬鹿不平多し)】
福原義春さん(資生堂名誉会長)


(1)「馬鹿不平多(馬鹿不平多し)」。友人から、福澤自身の揮毫によるこの言葉が書かれた掛軸を彼の父が茶室に掛けていると聞いた。実物を見たわけではないがそれが耳にこびりつき、私の人生を導く言葉になった。

他責は意味のない時間の浪費であり、素直に学びポジティブ思考で率先垂範することが重要であるということを端的に示す、奥深い5文字だと思う。

(2)福澤は漢学への深い知識の上にオランダ語や英語の研鑽を重ねて幕臣として重用された。けれどもその地位にこだわらず、維新後は生涯をかけて教育者として活躍、あまたの講演、著述をこなし、唯一の営利事業として「福澤屋諭吉」の屋号で出版業にまで乗り出した。

幼少期から『福翁自伝』でその生涯に親しんできた私は、そうしたマルチタスクをやり遂げる生き方にあこがれた。それが、複数の違った活動を同時に走らせ、収れんと拡散を繰り返しながら自分の中に取り込む私の「複線人生」の基本になっている

(3)「恰(あたか)も一身にして二生を経るがごとく 一人にして両身あるがごとし」というのは、『文明論之概略』の一節。江戸から明治への転換期を生きたことは、近世の封建社会と近代の産業社会の両方の体験という意味で、2つの人生を生きたに等しいという回顧の言葉だ。

我々もまた、産業社会から脱工業化社会・情報化スマート社会という「二生」を生きることを肯定的に捉えるべきであろう。さらに直近の社会環境と重ねると、それは、コロナ以前・コロナ以後の二生と考えられるかもしれない。

時代の流れは逆戻りすることはない。であるならば私たちは、過ぎた日々に拘こうでい泥するのではなく、「両身」を備えた人間として新たな世界の姿をダイナミックに描くことに、今こそ挑むべきなのだ。

福原義春(ふくはら・よしはる)さん
資生堂創業者・福原有信の孫。幼稚舎からの慶應義塾育ちで慶應義塾大学経済学部卒業後、資生堂入社。1987年社長、1997年会長を経て、2001年より名誉会長。


中津留別之書
福澤諭吉「中津留別之書」。明治3年の書に「一身独立して一家独立し......」に至る独立の主張がすでに刻まれている。(写真/慶應義塾福澤研究センター)

【一身独立して一国独立す】
星野佳路さん(星野リゾート社長)


(1)慶應義塾に入り自然と福澤諭吉の教えに触れる機会がありましたが、当時覚えていたものが卒業後に実感としてじわじわと湧いてきました。なかでも一番印象に残っているのが「一身独立して一国独立す」という言葉です。

私の中では「自分が独立しないと、国の独立はない」という、一見かけ離れているように思える1人の動きと国の動きが、実は関係があるのだということが非常に印象深く、今でも意識している言葉です。

(2)観光業界は地域に依存してしまう傾向がありますが、魅力的で強い観光地をつくるには、事業者各自が自分の顧客は自分の手で探すことが大事であると考えています

それぞれの事業者が顧客を開拓し集客することがその地域全体の強さになり、地方経済への貢献に繋がります。

コロナ禍には自治体や国の助けを一時的には得ながらも、基本的には自分たちで乗り切っていく覚悟が必要です。

(3)時々、福澤諭吉が今の日本を見たら何と言うだろうかと考えることがあります。人口減少、財政赤字、世界での存在感の縮小など、私たちの未来には多くの懸念があり、誰もがこのままではいけないと考えています。福澤は「今こそ一身独立して一国独立す」と言うのではないか

個人の独立、人に頼らない精神、誰もが学問を受けられる時代に、世界のどこにいても、人に頼らずに自立できるかどうかが、今この国に大事なことであると感じています。

星野佳路(ほしの・よしはる)さん
軽井沢にある温泉旅館の4代目として生まれる。慶應義塾大学経済学部卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1991年より星野リゾート社長。
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