©House of Cardin - The Ebersole Hughes Company美と芸術に仕える人の、突き抜けた実在感
ナビゲーター・文/平松洋子いったい世界のどこに、御年98歳で創造とビジネスの両方を差配する人物がいるだろう。いや、ここにいる。ピエール・カルダンが!
本作は、今年70周年を迎えたファッションブランドを率いるピエール・カルダンの軌跡を描くドキュメンタリーである。
なんといっても最大の説得力は、カルダン現在の強烈なオーラと精悍な佇まい。「ライフ・イズ・カラフル」の真の意味を、100歳を迎えようとする本人自身が伝える奇跡に興奮を覚える。
その一代は、つねにオリジナルだ。
オートクチュール全盛期に、一般のプレタポルテ市場へ参入。日本人の松本弘子や黒人モデルをいち早くハウスマヌカンに起用。
クラシック一辺倒の紳士服にモードを導入(ビートルズが愛用したスーツもカルダンの作品だ)。ユニフォーム、車、家具、香水などライセンス事業を手掛けたのも、自身の世界観を広く表現するため。
ソ連(当時)や中国、日本にも勇んで進出。カルダンは、「美」を通じてグローバリズムを体現する先駆者だった。
その情熱やエネルギーの根源が知りたくて、画面から目が離せなくなる。
ふんだんに挿入される過去のインタビュー、コレクション映像、ファッション作品......カルダンが独立した1950年以降、すべてがメインストリームの記録でもあることを、あらためて確認する。
続々と登場するカルダンの賛美者は、各界のトップランナー。
ナオミ・キャンベル、シャロン・ストーン、アリス・クーパー、森英恵、高田賢三、桂由美、ジャン=ポール・ゴルチエ。フィリップ・スタルク......カルダンから授かった創造性の泉が、それぞれの言葉で熱く語られる。
ドキュメンタリー映画としては、批評性は薄い。しかし、ひたすら美と芸術に仕えながら未来の扉を開けてきたカルダンの生き方は、その純粋さにおいてリスペクトにふさわしい。
だからよけいに、あけすけに語られるジャンヌ・モローとの恋と破局、そのために失った恋人アンドレ・オリヴィエとの関係が苦く、私たちはひとりのイタリア人の人生に光と翳を目撃する。
突き抜けた実在感のすばらしさ。「未来への可能性を信じろ」と叱咤される心地がした。
平松洋子(ひらまつ ようこ)
エッセイスト。講談社エッセイ賞を受賞した『野蛮な読書』や『洋子さんの本棚』など、近年は本についての作品を数多く発表。最新刊『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』など著書多数。 『ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン』
メンズモード界への進出、社会主義国でのファッションショー開催、新人アーティストの発掘と、つねに新たな取り組みを続けてきたファッション界の革命児ピエール・カルダン。98歳になる今なお、現役で自身のブランドを率いる彼の魅力とその世界観を伝えるドキュメンタリー。
2019年 アメリカ・フランス合作 101分
監督/P.デビッド・エバーソール、トッド・ヒューズ
出演/ピエール・カルダン、ジャン=ポール・ゴルチエ
公式URL:
https://colorful-cardin.com/2020年10月2日より、Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開 取材・構成・文/塚田恭子
『家庭画報』2020年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。