サン・ピエトロ大聖堂
街そのものが“美術館”と称されるローマ。その歴史地区と、隣接するヴァチカン市国はユネスコ世界遺産に登録されている。歴史、文化芸術としての価値はもちろん、景観の美しさも唯一無二のもの。写真はテヴェレ川から望むサン・ピエトロ大聖堂の夕景。世界最大、究極の美の聖地
16世紀、大航海時代によるイスラム教や仏教の流入、教会の腐敗や疫病の大流行と、当時キリスト教教会を取り巻く環境は厳しかった。それ故、ルネサンスや宗教改革も起きた。その中で教会の権威を取り戻すため、1200年前に建てられた旧聖堂を壊し、新聖堂建立を決めたのが、芸術を愛したローマ教皇、ユリウス2世だった。
「古い文化をリスペクトしつつ、新しい創造にむすびつけてゆくイタリアのDNAには目を見張る。その最も代表的な例がここである」千住 博さん(画家)ヴァチカン市国の中心、カトリック教会の総本山である「サン・ピエトロ大聖堂」。ルネサンス期の天才ミケランジェロが設計した直径43メートルの大クーポラ、その下の天蓋はバロックの巨匠ベルニーニが制作。彫刻以外の壁面絵画はすべてモザイク装飾で、ヴァチカン内の工房に伝わる修復技法により、この至宝は現代まで受け継がれている。
ミケランジェロたちが建築デザインPIETROを担当。ブロンズの扉やピエタ像などの優れた美術品は旧聖堂から移され、当時のローマに多く残っていた古代遺跡を破壊し、その美しい大理石を建築資材として用い、破壊と創造の表裏一体の結果生まれたのがこの大聖堂だ。荘厳にして圧巻。それが求められ、長い年月をかけて応えていった天才芸術家たちの偉業は、空前絶後というしかない。
千住 博(画家)1958年東京都生まれ。東京藝術大学大学院後期博士課程満期退学。95年創立100周年のヴェネチア・ビエンナーレにて名誉賞、外務大臣表彰、イサム・ノグチ賞、日米特別功労賞等受賞。作品はメトロポリタン美術館等世界の主要美術館に収蔵、常設展示されている。京都芸術大学教授。
撮影/山下郁夫
『家庭画報』2020年11月号掲載。
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