李禹煥《対話》2019年(右)、2020年(左) アクリル絵具、キャンバスナビゲーター・文/林家たい平静物と向き合い、風景と向き合い、人物、宗教と向き合い、それを目に見える色、形として表現していく。その過程の中で数々のアーティストが生まれて来た。
“我思う、故に我あり”。画家自らが自己と向き合うことがかつては一番大切だったと言えるかもしれない。
時は流れ、現代。我々人間を取り巻く状況は多様化し、世界が多くの問題を抱えている。
普遍的にアートに求める意味、意義はあるし、大切なことに変わりはない。しかし、今、この時代を体感し、共に生きるアーティストたちから受け取るメッセージは非常に大きく、また、共に考えていかなければならないことなのだと強く感じて館内へと向かった。
いきなり村上 隆を象徴するオブジェが出迎えてくれる。来場者に手を差し伸べる仕草は「今まで持っていた現代美術に対する概念を白紙に戻し、改めてアーティストたちの声に耳を傾けてください」と誘うように見えた。
日本人の持つ美意識、そこから生み出された独特の文化。今、伽藍を作ったらこの6名の作品ですべて構成できるのではないかと思ってしまうくらいだ。現代人を救う本尊であったり、お庭であったり、曼荼羅であると。
李禹煥(リウファン)の展示室に入った途端、その考えは間違いではなかったと確信した。
物質、情報が氾濫する現代、本当に向き合わなければならないものは何なのか?と禅問答されているようだ。
宮島達男の《「時の海─東北」プロジェクト(2020 東京)》は、さらにその気持ちに拍車をかけた。
宮島達男《「時の海—東北」プロジェクト(2020 東京)》2020年太古の昔より様々な時代を経て、今が一番、人間の存在理由を問われている時なのではないか、忘れてはいけないものとは何なのかを、最後の展示室、杉本博司の作品・映像が教えてくれる。
作り出すだけではなく未来に受け渡していく最も重要な時代に私たちはいる。今を生きるヒント、力、知恵を授けてもらう形となった。
来場者に若い人が多い。どんなことを感じたか、1人1人に聞きたくなる展示であった。
林家たい平(はやしや たいへい)落語家。武蔵野美術大学卒業。同大学客員教授。『笑点』などテレビやラジオ、全国での落語会に出演。出版物も多数。hayashiya-taihei.com 『STARS展:現代美術のスターたち─日本から世界へ』
戦後の高度経済成長期から現在まで、日本を拠点として国際的に活躍するアーティスト6人に注目。草間彌生、李禹煥、宮島達男、村上 隆、奈良美智、杉本博司の制作活動の軌跡を初期作と最新作をつなぐ形で紹介する。
森美術館〜2021年1月3日まで
休館日:無休
入館料:一般 2000円
ハローダイヤル:03(5777)8600
URL:
www.mori.art.museum※日時予約制
表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/白坂由里 撮影/木奥惠三
『家庭画報』2020年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。