役者としてそこにいるのではなく、一人の人間として何を示すのか
ベビーバトンを取り上げたテレビ番組で特別養子縁組の制度を知り、養子を迎える決意を固める清和と佐都子。そんな2人のもとにやってきた男の子の“お母さん”は、14歳のあどけない少女、片倉ひかり(蒔田彩珠)でした。ひかりが佐都子の手を取り、我が子を託してから6年。栗原家にひかりを名乗る女から、子供を返してほしい、ダメならお金が欲しいという電話が……。
撮影は、登場人物たちが経験したであろう物事を、その順番どおりに撮る“順撮り”で行われ、「佐都子と清和の2人のシーンから始まって、ひかりのパートになると僕らは空くんですけど、役積みが続くんです。カメラが回ってなくても、僕らの家に行って、そこには朝斗(佐藤令旺)と佐都子がいて、“今日の昼ごはん、何にしようか”って過ごしていく時間がずっと連なっていて。僕らの撮影があるときはあるときで、ひかりはひかりで役積みしてるんです」。
だから、「ひかりがどういう撮影をしているのか、まったくわからなかった」そう。ひかりを名乗る女が栗原家を訪れるときも「どんな様相で来るのかわからないですし、僕らは朝斗を守ることしか考えていなくて。観る人にどう作用するのかとか、そんな小手先では考えられませんでした」と言い、撮影現場では「1ミリでも芝居をしたら、切り捨てられますし、止められますし。芝居をしない、感じたことを素直にやる。役者としてそこにいるんじゃなくて、一人の人間として何をそこで示すのか、自分ができるすべてをさらけ出していくしかないんです」。役を演じる役者でありながら、芝居をせずにカメラ前に立つ。それは、井浦さんにとって「実はデビューのときからあったんです」。
「1本の作品としてひかりの物語を観た上で観る栗原家のシーンは、撮っているときは思わなかったけど、3人の必死さが痛くて痛くて」