――相葉さんが『道成寺』で演じるのは、エリートの父、社交的な母と暮らす、容姿にも恵まれた医学生の息子。さらなる幸福への執着から、おぞましい行為に及びます。相葉さんご自身は、執着心はあるほうですか?「ありますね。だから台本を読んでいて、わかる部分もあるんです。理性とか倫理観によって制御することなく、人が自分を満たそうとして生きたら、こういう執着の仕方をするんだろうなと。ある意味、自分自身の醜い部分を突きつけられているような気がしましたね。もしかしたら僕にも、そういうところが少しはあるのかなって」
――程度の差こそあれ、きっと誰にも執着心はありますよね。それがなければ、人としての成長や進歩もないような気がします。「確かにそうだと思います。何かに執着するからこそ、人は頑張れるものだと思うし。執着心がまったくなかったら、他人とコミュニケーションを取ることもしないかもしれない。自分の世界だけで生きていけるから。大事なのはバランスなんでしょうね。求める気持ちが強すぎたり、自分のことしか考えていないと、本人は愛だと思っている感情も、単なる執着に過ぎないものになってしまう。そのバランスが崩れたとき、『道成寺』で描かれている家庭のように破滅していくんだろうなと思います」
――そんな相葉さんが考える幸福とは?「この作品を読んで感じたのは、幸せは“気づき”なんだな、ということ。たとえば『道成寺』で描かれる家庭は、はたから見ればとても恵まれているのに、執着や欲望が大きすぎて、本人たちはそれに気づけない。もっともっとと求めるばっかりに、不幸になっていく。人って、恵まれた環境が当たり前になるほど、そのありがたさに気づけないんでしょうね。僕自身も、このコロナ禍でそれを改めて実感しました。読む台本があることも、人前で演じられることも、当たり前じゃなかったんだな、幸せだなと。稽古や本番中にさらにいろいろなことを感じると思いますし、お客さまにとっても何かしら気づきのある作品になったらなと思います」
ミュージカル『レ・ミゼラブル』は、2021年5月21日~7月26日まで東京・帝国劇場にて上演予定。8月~10月には、福岡、大阪、松本公演が予定されている。