鎮座100年を迎える森の社を訪ねて 明治神宮100年目の美と森 第5回(全7回) 東京という都会の中心に位置し、荘厳な鎮守の杜と日本一の初詣参拝者数で知られる明治神宮。明治天皇と昭憲皇太后をお祀りし、創建されたのが1920年。戦後復興を経て今年は鎮座100年の節目となります。11月1日の鎮座百年祭に向けてさまざまな準備が行われてきました。それは明治神宮における美の再編ともいえます。この美の神域に美の源泉を辿り、新たな時代に向けてのメッセージを探ります。
前回の記事はこちら>> 「御」が本殿へと遷座された日に。
大都会の中の闇の美
日が落ちて境内が闇に包まれていく頃、陰灯(かげとう)の小さな光を頼りに儀式が始まりました。仮殿から本殿へと神様がお遷りになるには「闇」が必要でした。
明治神宮に見る美の一つ、それはあまり人目に触れることのない闇の美しさです。
2019年8月10日、修復のため仮殿に遷座された「御(ぎょ=御霊代(みたましろ))」を本殿の内陣へとお遷しする遷御の儀が行われました。午後6時45分、勅使、宮司以下の神職が参進し、この儀は始まります。白い絹垣で覆われて仮殿から出御するその間、鹵簿(ろぼ=列)を導くのは陰灯(かげとう)と呼ばれる小さな手灯のみ。遷御の儀に入るとすべての灯が消され、笏拍子(しゃくびょうし)と警蹕(けいひつ)(「おー」と声を発して神霊に対して畏みを促す)、奏される雅楽だけが儀の気配を伝えます。
本殿遷座祭・遷御(せんぎょ)の儀暑い夏の夜、「御」を仮殿から本殿へとお遷しした儀式。この写真ではかろうじて見えるが、実際はさらに暗い闇のなかで行われた。東京という大都会の真ん中で、夜とはいえ街の灯で空は仄かに明るく、完全な闇にはならない。車や電車の街の音も遠くから聞こえてくる。しかしそれでもそこには完全なる美しい闇があるのです。それはその場を支配している“闇の必然性”といってもいいかもしれません。
除夜祭毎年12月31日に行われる除夜祭もまた夕刻、闇に包まれていく時間帯に祭事が進む。一年を締め括り、きたる年への祈りを捧げる。明るさのなかでは人の魂が躍動的に動きまわり、そこには祓いきれない穢れが跋扈する。闇は魂を鎮める。時が止まったような瞬間。闇ほど清浄な時間と空間はない。その時、神様にお遷りいただける──中島精太郎宮司のお言葉です。
祭典の際に掲げられる五色の吹き流し。遷御の儀を終えて南神門を出る鹵簿(ろぼ)。 〔特集〕鎮座100年を迎える森の社を訪ねて 明治神宮100年目の美と森(全7回)
構成・取材・文/三宅 暁(編輯舎) 撮影/鈴木一彦
『家庭画報』2020年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。