——映画化の話があったとき、「お好きなように作ってください」とおっしゃったとか。本作のほかにも映像化された作品がありますが、すべて「お好きなように」と?「書き手として責任を持たなきゃならないという考え方もあるんでしょうけれども、私の仕事はあくまでも小説を書くことだし、映画人の仕事は映画を作ることで、口を出し合ってうまくいくのは、同時進行のときだと思うんですよね。でも、これは同時進行ではないので。口は出さないって決めていましたし、実際に出す口もないし。楽しみにしていました。連作とはいえ、7編の短編をどう1本にするのか。私も全力で書いているので、映画人の遠慮のない全力を見たいと思いました」
——完成した映画は、色と音楽によってとてもうまく繋がっていました。「雅代(波瑠)は淡々とホテルローヤルを通り過ぎていく人たちを眺めているけれども、雅代以外は表情がくるくると変わる。その通り過ぎていく人たちのドラマをすべてタンゴで繋いでいくという……。“映画音楽”という一つのジャンルができるわけだ、と納得しましたね。特に武さんはとても音楽にこだわって作ってらっしゃる方で。ラスト(の音楽)は釧路のロケハンに行ったときに、“『白いページの中に』だ”と思ったそうです。あの曲は、私の年代にはたまらない曲なんですよ。2回、(完成した映画を)観ましたけど、2回ともそこで泣きました」
雅代が白シャツなのは、白がシーツの白でキャンバスの白だからと武監督から聞き、「なるほど。ものすごく納得しました」と桜木さん。