「利益が出ないから修理もできなかった看板が、撮影のためにスカッと立ったのを見て、映画ってずるいと思った(笑)」と桜木さん。——桜木さんが映像化の際に口を出さないのは、映画人の本音が聞きたい、何が見えているのか知りたいからで、自分が楽しむためだとか。完成した映画『ホテルローヤル』は楽しめましたか?「楽しめました。心地よい悔しさも味わいつつ、映画として本当に面白かったです。観たいものが観られた感じ。映画人のこだわりと気概を見ました」
——武監督は、「最後に雅代を救ってあげたかった」と。逃げていいんだよという女性へのメッセージなんだとおっしゃっていました。「前向きな逃避があるんですよね。生きていくために逃げていい、逃げて次の場所に行くんだ、っていう。心が折れてつらいとか、きついとか、今の世の中いろいろな感情にまみれていると思うんですけれども、前向きに逃げるっていいじゃないですか。逃げた先に自分の居場所があるかもしれない。逃げないでずっとそこにいるのか、ちょっとでも明るいところを目指して逃げるのか。逃げるっていうと、いい印象を抱かないかもしれないけれど、逃げてもいいじゃない。そう思います」
——そう言ってもらえると気がラクになります。「そうです。私も子供たち2人をそうやって育てました。これ以上一緒にいたら擦り切れてしまう、つらい。そう思ったら、たとえ親でも捨てるんだよって。子供も親を理由にしてはいけないんですよ。うまくいかないことを親のせいにすればラクだけれども、そんなこと言ってる暇があったら、どうぞ逃げてください。そして、毎日笑ってくれているほうが親だっていい。逃げてもいいんですよ」
桜木紫乃/Shino Sakuragi
作家
1965年生まれ、北海道出身。2002年、『雪虫』で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年に同作を収録した『水平線』で単行本デビュー。『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で第149回直木三十五賞、『家族じまい』で第15回中央公論文芸賞受賞。映像化された『起終点駅 ターミナル』、『硝子の葦』、『氷の轍』のほか、『光まで5分』、『緋の河』などの著作がある。
『ホテルローヤル』
原作:桜木紫乃『ホテルローヤル』(集英社文庫刊)
監督:武 正晴
脚本:清水友佳子
出演:波瑠
松山ケンイチ
余 貴美子 原 扶貴子 伊藤沙莉 岡山天音 正名僕蔵 内田 慈 冨手麻妙 丞 威 稲葉 友 斎藤 歩 友近/夏川結衣
安田 顕
配給:ファントム・フィルム
2020年11月13日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
公式サイト
https://www.phantom-film.com/hotelroyal/Ⓒ桜木紫乃/集英社 Ⓒ2020映画「ホテルローヤル」製作委員会