意思決定ができないときは主治医にそのことを伝える
主治医の塩田先生は、そもそも卵巣や子宮を残したくても選択できる人はそれほど多いわけではないことを前置きしたうえで、「射場さんのように早く治療を開始しなければならないときが最も難しい」と指摘します。妊娠・出産を希望する場合、臓器を残すことだけでなく、再発したら治療しながらの育児になることなど将来的な予測を含め熟考したうえで決める必要があるからです。
「患者さんの人生にかかわる大事な局面だけに答えが出ないときは、そのことを主治医に率直に伝えるのも一案です」と塩田先生はアドバイスします。決められない患者の気持ちを考慮し、がんがある卵巣だけを先に切除し、結論が出てからもう一度手術を行い、残していた卵巣と子宮を摘出することもあるそうです。
緊急手術の結果、破裂した卵巣は14センチもの大きさになっていたことが判明しました。「発見されたのは2月で、腹水がたまっていたことも考えると次のお正月は越せないかもしれないと一時は覚悟しました」と射場さんは当時の心境を語ります。
ただ、死に対する恐怖はなく、それまで精いっぱい生きてきたので人生に対する悔いを感じることもなく、淡々と事実を受け止めたそうです。「死を身近に感じたけれど、それで諦めたわけではありません。できる治療をやって心配する家族のためにも生き抜こうと気持ちを切り替えました」。こうして射場さんは術後の化学療法に臨むことになりました。
「がん看護を専門とする看護師がいます。不安や心配に思っていることをできるだけ具体的に伝えてください。患者さんの思いがケアを引き出すのです」
がん看護に取り組む仲間の励ましで前を向く
治療が一段落した頃、大学院でがん看護をともに学んだ仲間の誘いでハワイで行われた米国の緩和ケアの研修会に参加。あらためてがんになった当事者として自分の気持ちに向き合う機会となった。そして、患者になって得た経験をこれからの看護や医療に生かしていきたいとの思いも芽生えた。