第34回
「神号」と噂される最新号の制作裏話&メッセージ
03 きもの編集ライター 両角明美さん編
皆さま、創刊40周年記念の『
家庭画報特選 きものSalon 2020-21秋冬号』は、もうご覧いただけていますでしょうか。『きものSalon』本誌の発行は年に2回。次回発売まで、まだまだ楽しんでいただくために、各特集の担当編集の先輩に制作時のお話や、きものへの想いなどを伺いました。
文様の意味を知れば、きものはもっと楽しくなる
続いては、毎号のように、きものの知識欲とおしゃれ心を満たすページを手がける
両角明美(もろずみあけみ)さん。『きものSalon』最新号では「祈りのかたち 吉祥文様」や「幻の染め・辻が花」のページを担当。早速いろいろと伺ってまいります。
両角明美さん(以下、両角)「30年も前から、毎回、1つの文様を取り上げた特集ページを作ってきました。今回はその総まとめです。コロナ禍の中、この文様特集を通して、厄落としや疫病退散、将来への願いなど、皆さんの心が少しでも穏やかになったらと思い、制作しました」
私は「熨斗(のし)」の項目に興味を持ちました。元は乾燥した鮑を使った婚礼用の熨斗床飾りだったのですね。きものや帯のモチーフでしか見たことがありませんでした。
両角「気になった箇所から読んでいくといいと思いますよ。すると興味がなかったことも、次第に知りたくなるはずです。文様のほとんどは中国から伝来してきたようですが、扇子は日本が発祥と言われています。また、極楽浄土に咲く花と言われる蓮は仏教的なイメージが強いけれど、吉祥文様でもあるんですよ。面白いですね」
「祈りのかたち 吉祥文様図典」が単行本化!?
両角「文様はさまざまな方が研究されているので、解釈や信憑性がとても大事です。『きものSalon』では東京国立博物館の漆工室長も勤められた公益財団法人 永青文庫館長の小松大秀先生に監修をお願いし、最新の情報を執筆していただきました。
実はいま、文様図典を単行本にしようと取りかかり始めました。ずっと手元に置いて楽しんでいただきたいと思います」
歴史を知る面白さ ミステリアスな辻が花
続きましては特集「幻の染め・辻が花」について。絞りで表した絵模様、さらには細い墨線(描絵)の美しさ……。さまざまな技法が凝縮された辻が花の世界は、私にとってはモダンにさえ感じます。実はことあるごとに両角さんには辻が花の特集をしてください!と熱く要望しておりました。
現代作家の森健持さんが作業する姿は本誌でご紹介しました(写真左)。今回は奥に飾ってある辻が花の誰が袖屏風ミニチュア版に寄った写真を両角さんからお借りしました。鹿の子など針の先ほど繊細に表現されていることが分かります。両角「博物館などできものの展示を見るたびに、どんなに豪華な小袖よりも辻が花に惹かれることがありました。また、前号にご登場いただいた稲葉賀惠先生が、辻が花の帯をしていてとても素敵だったんですね。
さらにE子さんなど若い世代が辻が花に興味を持っていることも面白いと感じ、もう一度調べ直そうと思ったのがこの特集のきっかけです
辻が花の歴史には、いろいろな説があるんです。そもそも「辻が花」という言葉自体も曖昧なのですが、東京国立博物館の小山弓弦葉先生が解明し、丁寧に執筆してくださいました」
古典柄をセンスよく着こなすテクニックとは
辻が花などの古典柄にはどんな帯を合わせたらよいのでしょうか。誌面を見ると、きものと帯のどちらも辻が花の柄同士は合わせていません。かと言って、無地でもありません。何かセオリーがあるのでしょうか。
両角「まずは色調を揃えましょう。控えめな色合いの柄に、原色を持ってきては、世界観が台無しですからね。それと無難だと思って無地の帯を合わせるのは素材感が際立つので、なかなか難しいかと思います。織り方や素材感でニュアンスが違って見えますから……。
おすすめは昔からの合わせ方ですが、きものが花柄のときは、菱や亀甲、七宝柄や鳥襷などの、有職文様や幾何文様の連続した柄を合わせること。すっきりまとまると思いますよ。
これから古典柄のよそゆききものが欲しいなら、全体に柄が描かれているのではなく、無地場の多い付下げなどを選ぶとよいと思いますよ」
帯選びは心から気に入ったものを
憧れの辻が花。帯をメインに、色無地、江戸小紋や紬無地などを組み合わせることができます。/田園調布 秀や両角「以前、笹島寿美先生が「きものは社会性、帯は本性」とおっしゃっていました。きものはどういう場面に着ていくか、誰と一緒かなどを考えて選びます。格の統一を取れば、帯は自分らしさを大切にして選びましょうということだと認識しています。
最近は、インターネットやリサイクルショップなども増え、求めやすくなりましたが、帯は値段や“あったら便利かも”という気持ちではなく、本当に欲しいものを揃えていくことをおすすめします。大切に揃えたものは後になっても手持ちのきものに合うので重宝しますよ。私も若いころに気に入って思い切って買ったものは、今でも使っています」
本当に気に入ったもの、好きだと思ったものは色あせず、これから続く私のきものライフを彩ってくれるのですね。両角さん、とても参考になりました。