“日本版・赤毛のアン”。俯瞰して自分を見る“癖”
コロナ禍の生活の不自由さは受け止めつつも、竹内さんの楽曲「いのちの歌」のフレーズ“ささやかすぎる日々の中に かけがえない喜びがある”というとおりの時間をもう一度じっくり味わえたと、どこまでもポジティブ。物事に溺れすぎず、客観的、俯瞰的に捉える、その性格の背景をお聞きすると、意外な言葉が返ってきました。
「カナダ人の作家、L・M・モンゴメリの小説『赤毛のアン』、このお話が昔から大好きなんですが、アンは想像力が豊かで空想癖がありますよね。私もそういう性分なのかもしれません。小さな頃から、もう一人の自分が自分を見て面白がる癖があるんです。ハッピーならさらにハッピーに、アンハッピーならそれを逆に面白がって客観的な目で見てみる。大抵のことはその発想でやり過ごしてきた気がします。曲作りにもその客観性が役に立つんです。もう一人の私が、シンガーである自分を俯瞰して見ているんですね」
人間性の価値観が等しいからこそ共に生きていける
竹内さんの夫であり、その楽曲のプロデューサーであり、バック・バンドのマスターでもある山下達郎さん。言わずと知れた、日本を代表するレジェンド的なミュージシャンは、竹内さんにとってどのような存在なのでしょうか。
「シンガー、ミュージシャンとしての達郎はある種の理想形です。作詞作曲の才能、演奏能力、編曲能力、そして天才的な歌唱力といったポテンシャルの高さは日本随一だと思っています。でも、そのうえで非常に努力家でもある。そこは限りなくリスペクトです、本当に。音楽に対する志が高いんでしょうね。だけど、ごく普通人でもあり、才能と社会性とのバランスが取れているのが珍しいと思うんです」
「彼とは人間性の部分での価値観を等しく共有できていることが、音楽を一緒にやれる基盤になっている」との言葉も印象的でした。誠実で信頼できる、最高のパートナーに出会えた幸運を「ひょっとして、前世で何かすごくいいことをしたご褒美としか思えない」と笑います。
42年間、音楽活動を続けてきたその道のり。ご自身にどんな声をかけてあげたいかを尋ねたところ、「幸運が私をここまで運んでくれたけれど、たくさんの素晴らしいご縁に恵まれてよかったね」と竹内さん。
竹内さんの楽曲のプロデューサーであり、バック・バンドのマスターでもある夫・山下達郎さんとの貴重なライブ共演シーン。一方で、理解あるパートナーや仲間たちに恵まれて、好きな音楽で楽しく自己実現できているその状況に、実は少しコンプレックスを感じることがあるそう。
「額に汗して命を削り、苦境を乗り越えていく、という経験をしていないことが、自分の中ではいつも弱みに感じていて。好きなものに向かっていくエネルギーだけは持っているけれど、それは努力ではないんですよ。だって音楽は好きなことだから!
運に恵まれてきたことに感謝して、今後それを誰かの幸せへと還元したいと思っています。その一つがライブ。私は本当はスタジオで曲制作をしているときがいちばん幸せなのですが、歌を聴いて喜んでくださるかたのために勇気を持って、時々はステージに立たないとね(笑)」