一陽来復、美しき、新年の幕開け「しあわせ満ちる開運の地へ」 第8回(全13回) 2020年はこれまでにない混迷が世界中を覆い尽くし、見通しのきかない一年となりました。新しい一年は、心機一転、気持ちを一新し、積極的に福をお招きして、縁起よく迎えていただきたい。そんな願いを込めて――開運へと導く場所と、福を呼ぶ暮らしを紹介します。
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注連縄飾り
鶴亀 縁起物のお飾り鶴の羽は藁の中に針金を一本一本通して、節の位置を揃えて作られる(1500円、縦20×横10センチ)。甲羅の編み目が美しい亀は大、中、小がある。写真は小亀(1500円、縦15×横7センチ)。「孫ができない7人の知人に鶴亀を贈ったら、全員から1年後に孫ができたと知らせがありました」と上甲さん。すべての材料が手作りの幸せ運ぶ、わら細工の縁起物
新年に歳神様を迎える、玄関などに飾られる注連縄(しめなわ)。地域によっては、一年を通して室内外に飾り、「恵みある自然の神様がここにいる」という印として大切されてきました。
「今年も無事収穫できたことに感謝して、新年を迎えるため、一つ一つ誠意を込めて作るんよ。ただ形を作るだけではいかんのですらい」と語るのは、愛媛県西予市の注連縄作家、84歳の上甲 清さん。家業の農業を継ぎ、20年前から試行錯誤を経て、独自の「宝結び」や「鶴亀」を完成させました。
力強く、凜とした佇まいの上甲さんの「宝結び」(3000円、縦50×横16センチ)。縄の撚りが端から端まで均等で、形が左右対称になるためには、藁を育てる工程から細かい仕分けまで、丁寧な下準備が必要。90歳のお姉さまが藁の仕分けを手伝っている。カビ止めのため、完全に乾燥させてから水に浸して柔らかくし、作業に入る。房の上部を留めた麻紐も手作り。古代米の稲穂が使われており、もち米の稲穂を使った白房のものもある。穂が出る前に刈り取った、しなやかなで青々しい藁で宝結びの中心部を結ぶ。道具も工房もすべて手作り。材料は近くの山で探す。「2~3年の経験でこの注連縄は作れんけん、藁文化を後世に残すため、若い世代に教えたい」と話す上甲さん。「改良すべきところはないと思えるほどの形に仕上げたけど、満足しちゃいけん。今年は去年よりもっとよい形に、と思って作るんよ」。古代米の稲藁の注連縄は、大相撲や新居浜の太鼓台で見られる宝結びから着想を得ました。今では藁のためだけに稲作をしていて、収穫時期や肥料の量などを慎重に見極め、藁の太さや色、穂の大きさまで管理して育てています。
手刈りした後は藁を傷めないよう、足踏み脱穀機にかけるなど、すべての工程が手作業。工房で縄を撚る仕事は最終工程です。「宝結び」は早朝から夜10時までかけて1日10個完成します。上甲さんの工房には今、新年を飾る丹精込めて作られた、青々しい香り漂う宝結びが、びっしりと並んでいます。
愛媛県西予市では稲の収穫後、藁を保存する「わらぐろ」があちこちで見られた。2018年まで「わらぐろ」の保存に努めていたが、今は藁細工を通して藁文化を残したいと考えている。材料の藁を手刈りする上甲さん。上甲 清さんの工房TEL:090(7628)9659 注連縄はなくなり次第販売終了
〔特集〕一陽来復、美しき、新年の幕開け しあわせ満ちる開運の地へ(全13回)
表示価格は原則として税別です。
撮影/本誌・坂本正行
『家庭画報』2021年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。