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【スーパー獣医 野村潤一郎先生の動物エッセイ】愛しき「飼いにくい」動物たち

2021.01.29

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高い壁のひとつに“ワシントン条約”がある。

これは絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約で、ものすごく簡単にいえば“生息数が少ないから飼っちゃダメ”という法律だ。その昔、アジアアロワナはその最たる対象だった。この美しい熱帯魚が絶滅の危機に追い込まれたのは、環境破壊に加えてその身が美味だったからだという。飼育するには正規輸入の個体に国が出す登録票が必要で、これが添付されている個体を“紙付き”と呼び、時には1000万円以上と今では考えられないような値段で取り引きされた。

アジアアロワナを飼っていた電気屋のハジメ君は仕事の取り引きで詐欺に遭い大金を失ったが、愛魚を担保に金800万円也を借用し、破産を免れた。店を再建して黒字になると、命の恩人ならぬ恩魚を再び引き取った。しかし、災難が続いた。


地震に驚いたアロワナが水槽から飛び出して死んだのである。ハジメ君は七輪でその死体を焼き、炊いた米と一緒に食べた。

「俺のアロワナ、いろいろとありがとう。ああ、可愛くて……美味しい、本当に美味しい」。そう言いながら涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしていた様子が今でも忘れられない。

イラスト/コバヤシヨシノリ

“動物愛護管理法”で定められている特定動物は、人に危害を与える可能性のある数多くの動物が対象で、基本的に飼育禁止になっている。

その一つのドクトカゲは「ヒラ川の怪物」の異名がある。

ずんぐりした身体でその鱗はビーズ玉のようであり、ピンクと黒のまだら模様が恐ろしい雰囲気を醸し出している。唾液に強い神経毒を持ち、咬まれると死ぬことがある。ちなみにこの毒の解毒剤はない。こんな危険な生物を愛でるのは、かなりのスキモノだと言える。死と隣り合わせの生活は、毒のないつまらない世の中に飽きた者にとって不満を相殺するための刺激になるのかもしれない。

ハナブトオオトカゲは世界最長のオオトカゲで最大全長は4.5メートル。

ニューギニアのジャングルでは“森のワニ”と呼ばれている。非常に凶暴で、これを飼った飼い主は100パーセント咬まれて大怪我をする。しかしそんな化け物と一緒に暮らしたいと望む強者(つわもの)は常にいる。この血の匂いのするモンスターは恐竜のようでかっこいいのだ。

ニシキヘビ類とアナコンダはご存知の通り大蛇である。

現地ではしょっちゅう人間が喰われている。前者は小さければ危険度が低く、裸体にヘビを巻いて踊るスネークダンサーが使うのもこれだ。ただし、大きく育った個体は飼い主をエサと見なして、絞め殺すこともある。

アナコンダについてはさらに難しい。

この大蛇は頭が悪く、攻撃的で常に飼い主を憎んでいる。いずれにしても本能のおもむくままの生物が家にいるのは心地よいストレスであり、しかも事故が起こるその日までは野生美を毎日味わえる。

ワニガメは最大180キロの記録もある巨大なカメだ。

いかつい外見の割にややおとなしい。挑発しなければ攻撃してくることはない。本来待ち伏せ型の捕食形態をとる生き物だからだ。しかし、貪食な彼らは飼い主の身体の一部をエサと間違えることがある。運が悪ければ腕の一本は覚悟しなければならないが、大水槽に沈んでエサを待つ姿は見ごたえがあり、時間が経つのを忘れる。

こうして挙げればきりがないくらいに出てくるが、実をいうと爬虫類飼育文化の第一世代の一人である私の場合、この法が施行される遥か以前からこういった危険生物をたくさん飼ってきた。あの時代を経験できて良かったと思う。さんざん痛い目にも遭ったけれどエキサイティングだった。
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