レア音源で秘密を探る
©MARKA/Alamy Stock Photo2020年7月6日、エンニオ・モリコーネが91歳で世を去った。喪失感は大きい。
モリコーネ作品で最も広く親しまれているのは映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の音楽だろう。美しい旋律とハーモニーが郷愁を誘い、南伊の明るい太陽を思わせる。
一方で彼はもともと、現代音楽全盛期にローマにある名門のサンタ・チェチーリア音楽院で作曲法を学んだ人。実験的な創作への欲求も強かった。
代表ジャンルの一つであるマカロニ・ウエスタン映画の音楽は、今でこそ懐かしさを感じるが、当時、口笛や口琴をメインに用いるのは斬新だった。
今回、没後初のアルバムがリリースされたが、ここに登場するのは口笛どころではない。女声スキャットやピアノによる甘い音楽もありながら、ときに奇声やノイズ音がサイケデリックな雰囲気を醸す。
多くは日本未公開のサスペンス映画の楽曲。さすが天才の感性、実験的音楽でも耳を引きつける。
モリコーネが真に没頭していたのは、大衆に受け入れられにくいこうした創作だった。長男のマルコは「エキサイティングな収録曲の中に、父の姿が見える」と語る。
今、改めてモリコーネが追求した音楽を知り、その偉業に思いを馳せたい。
ドキュメンタリー映像をご覧いただけます
モリコーネ92回目の誕生日となるはずだった2020年11月10日、彼の創作活動にかかわった音楽家が集い、レア音源を聴く様子を収めたドキュメンタリーが無料公開された。
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表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/高坂はる香
『家庭画報』2021年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。