海を渡った京焼の器と、おもてなしの心 パリと真葛焼、茶懐石の一会 第2回(全3回) 19世紀後半、パリ万国博覧会で高い評価を得た日本の陶芸家、初代宮川香山。それから140年後、先祖を一にする京都の陶家、6代宮川香齋の嗣子、宮川真一さんは、京焼の魅力を世界に発信したいと、数多くの器を携え、パリに渡りました。フランスの人々を茶懐石でもてなした一会を追いました。
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真葛焼の器は美意識の高いパリの人の目にどう映り、そしてどう使われるのでしょうか。ミシュランのスターシェフ、インテリアコーディネーターの女性、二人に器を託しました。
柳と桜の向付を見たギィ・マルタンシェフが瞬時にひらめいたのが、洗朱色の肌が美しい魚ルジェ。奥の五輪にちなんだ5色を差し色にした揃いの盃には、白味噌と一緒に巻いて蒸した鯛とラディッシュ。目にも鮮やかな春色のハーモニーを奏でる。ギィ・マルタンさん
(「ル・グラン・ヴェフール」シェフ)
日本にもたくさんのファンがいるレストラン「ル・グラン・ヴェフール」のオーナーシェフ、ギィ・マルタンさん。フランス料理の中に、柚子、わさびなどの日本の食材をいち早く取り入れたパイオニアでもある彼は、日本の陶芸にも造詣が深く、真葛焼のこともすでによくご存じです。
「繊細な色と形の器には旬のとびきりの食材に通じる
インスピレーションがあります」
正統派のフランス料理に使われる食器はたいてい正円形で、日本の食器に比べてかなり大きいものが多く、向付のような小ぶりでしかも不定形の食器はほとんど見かけません。実際、マルタン氏が使うのも伝統的な大ぶりの陶磁器がほとんどなのですが、今回、宮川さんがパリに持参した器の中には、すぐにそこにのせる料理が浮かぶものが少なからずありました。
ワラ灰釉掛分木の葉型向付に盛ったのは、帆立貝のポワレ。この料理では西洋ごぼうをさまざまな形で使っているが、チップス状にしたものと器の配色が呼応している。いつものひと皿分の量を器の大きさに合わせてアレンジしてくれた数々の料理。季節感に敏感で、食材への敬愛に溢れるシェフの感性と、真葛焼の世界観とが共鳴しています。
パレ・ロワイヤルの一角、18世紀の見事な内装を受け継ぎ、200年以上にわたり美食の殿堂であり続けるレストラン。Netflix『エミリー、パリへ行く』の舞台にもなった。Le Grand Vé four ル・グラン・ヴェフール17, Rue de Beaujolais 75001 Paris TEL:+33(0)1 42 96 56 27