ミュージカルの極意“誰もが自分の物語を見つける”
『屋根の上のヴァイオリン弾き』が日本で初めて上演されたのは1967年。半世紀以上にわたって愛されてきた音楽もストーリーも素晴らしい作品です。
僕が主人公のテヴィエを最初に演じたのは2004年で、当時は必死でしたが、今ではアナテフカ(舞台となる帝政ロシア時代の寒村)に住むユダヤ人のテヴィエとして自然に演じられるようになりました。
役作りはひげをはやすところから入っていくのですが、今はあの衣裳を着て、帽子をかぶって荷車を引っ張り出すと、即、テヴィエになれるんです。僕自身が昭和24年生まれで荷車で育った世代だからこそ実感できるのだと思います。
これほど再演を重ねてきたのは、親子の話であり、夫婦の話であり、ストーリーに描かれている普遍性に魅力があるからだと思います。
娘を持つ父親のテヴィエの気持ちや妻のゴールデ役を演じる鳳 蘭さんとのやりとりなどをご覧になっているお客さまが、自分の生活と照らし合わせているのではないでしょうか。
お芝居なのですが僕自身が楽しんでいることをお客さまにも楽しんでいただけるのだと思います。テヴィエは最初から最後まで出ずっぱりなので、こんなに嬉しいことはありません。役者冥利に尽きます。
僕はたかだか2、3時間で他人の激しい人生を生きることができることに感動してこの世界に入ったので、テヴィエを演じることで自分の人生と向き合って、生きることができてありがたい。今回の稽古場で生まれるものが楽しみです。
市村正親(いちむら・まさちか)
1949年、埼玉県出身。73年に劇団四季の『イエス・キリスト=スーパースター』でデビューし、『オペラ座の怪人』のファントムほか多くの作品で主演を務める。退団後はミュージカル、ストレートプレイ、一人芝居などさまざまな舞台をはじめ、映画やドラマなど幅広く活躍。2019年に旭日小綬章など、受賞多数。21年9月にはミュージカル『オリバー!』に出演予定。
公式ウェブサイトはこちら>>ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』
帝政時代のロシアを舞台に、“今”を懸命に生きる家族の愛と絆を描いたミュージカル。ショーレム・アレイヘムの短編小説を原作に1964年にブロードウェイで初演され、トニー賞ミュージカル部門で最優秀作品賞、脚本賞、作曲賞など、7つもの賞を獲得した名作である。
日本の初演は1967年で2004年からは主人公のテヴィエ役を市村正親が演じ、半世紀にわたって上演されてきた。09年から妻・ゴールデ役を務めてきた鳳 蘭とは名コンビ。2人が愛する娘役には長女・ツァイテル役に凰稀かなめ、次女・ホーデル役に唯月ふうか、三女・チャヴァ役に屋比久知奈が出演。軽妙な台詞まわしと軽快な音楽とダンスが楽しめる作品である。
日生劇場※この情報は、掲載号の発売当時のものです。最新情報は公式サイト等でご確認ください。~2021年3月1日
S席1万3500円ほか
東宝テレザーブ:03(3201)7777
公式URL:
https://www.tohostage.com/yane/※愛知、埼玉公演あり
表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/山下シオン 写真提供/東宝演劇部(2017年公演)
『家庭画報』2021年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。