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【スーパー獣医 野村潤一郎先生の動物エッセイ】骸骨のような猫が病院にやってきた

2021.02.25

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我が病院の入院フロアーは動物の種類ごとにガラスの壁で区切られている。暑さに弱い犬たちは涼しい部屋、寒さに弱い猫たちは暖かい部屋に入る。また、各自の視線が合わないような工夫もしている。三すくみにならないようにするためだ。

数日後、それまで声すら出せずに“口パク”で鳴いていた猫は、高い声で食事を催促するようになった。
「センセ、メシクレニャー」
「あ、そんな声だったの」


入院室で寝そべってばかりいた彼は、やがて自力で立つ意志を見せた。
「がんばれ!」

右にころり、左にころり、見ていられない。猫は言った。
「センセ、ネタママノ、トイレハ、カンベンニャ!」

猫は潔癖症だ。トイレに行く執念が、一本だけになった彼の後ろ足の動力源だった。猫の運動神経は動物界きっての特別性である。それ以降のリハビリは想定通り順調に進んだ。

自分が助けた動物は、愛着もひとしおで愛しいものである。私は毎日相手をした。蒸しタオルで顔を拭き、金ぐしで毛をとかし、膝に乗せて話し、高級な栄養食を食べさせた。

「センセのヒザハ、アッタカイニャ!」
何を隠そう私の平熱は37度ある。寒さは感じないので冬でも半袖一枚だ。友人たちが私の背中を触ったり腕を触ったりするので理由を聞くと「温かいし、御利益がありそうだから」と言う。ナントカ地蔵じゃあるまいし。

「猫と遊んでるところを悪いんですが、診てくださいよ」と患者さん。

いやいや、信頼関係を築いた相手とのスキンシップは、健康の回復に著効するのでこれも治療のひとつなのです。他の入院猫たちも「ボクモホシイニャー」「アタチモアソビタイニャー」と催促するのでみんなにも同じくする。ヒイキは心の健康に良くないからだ。

回復した猫は体重も増え、サラサラの毛は金色に光ってまるで獅子のようだった。いい仕上がりである。かくして退院の日が来た。飼い主は「別人のように立派になったわ」と驚いていた。

猫は言った。
「センセ、オセワニナッタニャ。オウチニカエルニャ」
「元気でな。三本脚のハンサム猫」

イラスト/コバヤシヨシノリ
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