「ありふれた光景も角度や時間によって美しさを放つことができる」と語ったフランスを代表する写真家ロベール・ドアノー。
パリの街を日々歩きながら、人々のいきいきとした瞬間を撮影し続け、1994年に82歳で没した。
《ロベール・ドアノーのセルフポートレート》ヴィルジュイフ 1949年 ロベール・ドアノー作品。ゼラチン・シルバー・プリント ©Atelier Robert Doisneau/Contactそんな彼の数ある作品のなかから、パリの街と音楽にまつわる約200点の写真を集めた回顧展が開催される。
昨秋に93歳で他界したフランスの国民的シャンソン歌手、ジュリエット・グレコの若き日、20世紀最高のソプラノ歌手の一人、マリア・カラスがレコーディングの合間に見せた穏やかな表情、イヴ・モンタン、エディット・ピアフ、親友でもあった詩人・作家のジャック・プレヴェールらの写真も。
《サン= ジェルマン= デ= プレのジュリエット・グレコ》1947年 ロベール・ドアノー作品。ゼラチン・シルバー・プリント ©Atelier Robert Doisneau/Contactどれも映画のワンシーンのよう。写真家ドアノーと、音楽家や作家との心通うコラボレーションといえる。
また、精肉店の男が、流しのピエレット・ドリオンが演奏するエレジー(哀歌)に聴き入る場面を写した写真もある。男は仕事を抜けてきたのだろう。市井の人々にも温かい眼差しを注いだドアノーの人柄もにじむ一枚だ。
《音楽好きの肉屋》パリ 1953年2月 ロベール・ドアノー作品。ゼラチン・シルバー・プリント ©Atelier Robert Doisneau/Contactこの展覧会を監修したのは、ドアノーの孫で、ジャーナリスト・美術史家のクレモンティーヌ・ドルディル。少女時代からドアノーに連れられ、握手や対話から始まる撮影現場も見てきた人だ。
「祖父の写真は私たちの笑いを誘い、夢を見させ、希望を抱かせてくれます」と語る。
旅に出ることが難しい今、パリの空の下に流れる音楽に耳を澄ませるような気分で巡りたい。
『写真家ドアノー/音楽/パリ』
※最新の情報は、公式サイトでご確認ください。Bunkamura ザ・ミュージアム~2021年3月31日
休館日:無休
入館料:一般1500円
ハローダイヤル:050(5541)8600
展覧会の詳細はこちら>>※3月20日・21日・27日・28日に限り日時予約制
表示価格はすべて税込みです。
構成・文/白坂由里
『家庭画報』2021年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。