プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> ぬか漬けのかくや和え
8月16日に「
夏野菜のぬか漬け」をご紹介しましたが、漬けものも人によって好みが分かれますね。あっさりした浅漬けがいいという方もいれば、少し漬かり過ぎたくらいの古漬けこそという方も。
本日はその両方に満足いただけるぬか漬け料理をご紹介します。かくや和えといいます。ぬか漬けだけでなく、たくあんや他の漬けものでも応用できます。
「かくや」という名前の由来は2つあります。高野山で常灯明の火が消えぬように夜通し番をする隔夜堂(かくやどう)の担当には年老いた僧が当てられ、歯も悪い老僧が食べられるようにと漬けものを細かく刻んだとする説。あるいは徳川家康の料理人だった岩下覚弥(かくや)が考案したという説です。
作り方は、古漬けを細かく刻んで、水につけて好みの具合に塩分や酸味を抜きます。そして、よく水気を絞って香味野菜やいりごまなどを加えて日本酒と薄口醤油で味つけするのです。
それが一般的なかくや和えですが、私はもう一手間かけます。そこに浅漬けも刻んで加え、古漬けにしかない独特の風味と、浅漬けの歯切れのよさと生に近い味わいの両方を一つにします。
家族や自分の好みを知っていても、それを具現化するには知識とテクニックが必要です。かくや和えをマスターすると、塩や酸味の抜き方、浅漬けや生野菜、香味野菜やごまなどを加えるテクニックが身につきます。
プロは万人がおいしいものは作れても、あなた自身やご家族の好みというピンポイントに合わせた料理は作れません。それを実現できるのが家庭料理の醍醐味です。
今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「ぬか漬けのかくや和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・古漬けの塩味と酸味の抜き具合が重要。抜き過ぎると古漬けを加える意味がなくなる。
・浅漬けだけでなく、塩もみした野菜や生野菜も刻んで加える。
・たくあんやべったら漬け、奈良漬けなどを刻んで加えると、甘みと風味が加わり味に広がりが出る。
・油分が欲しければ、いりごま、あるいはオリーブ油を数滴たらすのもよい。刺激は生姜や一味唐辛子などで。
「ぬか漬けのかくや和え」
【材料(作りやすい分量)】・古漬けきゅうり 1本
・古漬け水なす 1/2個
・古漬け小かぶ 1個
・浅漬けきゅうり 2本
・浅漬け水なす 1/2個
・浅漬け千両なす 1個
・浅漬け小かぶ 1個
・みょうが(せん切り) 2個分
・生姜(せん切り) 10g
・とんぶり 大さじ1.5
・ラディッシュ(生を薄めの輪切り) 1個分
・白いりごま(市販のいりごまを軽く煎り直す) 大さじ2
・薄口醤油 小さじ1弱
・日本酒 小さじ3
・オリーブ油(サラダ油でもよい) 小さじ1弱
「
夏野菜のぬか漬け」参照
【作り方】1.古漬けは好みにもよるが、4~5日漬けてぬか漬け独特の酸味と風味が出たものをそれぞれ用意して、一口サイズの大きさで2mmほどの厚さに刻む。
2.水を入れたボウルを用意し、1を入れて塩分と酸味を程よく抜く。抜き過ぎると古漬けのよさがなくなる。ぬか漬けの場合は、漬かり具合にもよるが、通常1分程度水につければ十分である。
3.浅漬けは半日~1日漬けたものを一口サイズの大きさで2mmほどの厚さに刻む。
4.とんぶりは粒が小さいので、目の細かい茶こしなどに入れたままさっと茹でて水で冷やす。水分をきった後、クッキングペーパーなどでさらに水分を除く。
5.2をざるに上げ、両手で水分を絞ってボウルに入れて3と合わせる。みょうが、生姜、とんぶりを加え、日本酒と薄口醤油で味を整える。さらにいりごまを加え、味をみて油を数滴加えて油分をたす。
6.器に盛り、彩りで生のラディッシュのスライスを飾る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗