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煮汁を使い回すから深い味わいに。2日間かけて作る煮しめに挑戦しましょう

2021.12.11

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プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。一覧はこちら>>

煮しめ



煮しめ

今日は煮しめの話をしたいと思います。煮汁を残さずに具材にしみ込ませていくので「煮しめ」と呼びます。煮しめといえばおふくろの味、今の時期であればおせち料理というイメージかもしれません。若い頃はそれほど好きではなくても、年齢を重ねるごとにしみじみおいしいと感じるようになる料理ですね。今日は家庭だからこそおいしくできる煮しめの炊き方をお教えします。


煮しめに限らず、私たちプロは煮ものを作る際、素材ごとに別々に炊いて、炊き上がったものを盛り合わせて炊き合わせとします。ところが、昔の料理人は煮汁の使い回しということをしていました。これは節約のためではなく、それぞれの素材の風味や旨みが出た煮汁を生かし、より一層おいしいものを作るという工夫でした。この技法は「秋の切り干し大根」でおばんざいを炊く際に味が複雑になり、奥行きが生まれる工夫として既に紹介していますね。

現在ではおせち料理の煮しめも別々に炊き上げて盛り合わせるのが一般的で、プロでも煮汁を使い回す炊き方を知る人がほとんどいなくなりました。

まずは4種の野菜を適した味つけで別々に炊いて、次の段階でそれぞれの煮汁を合わせて別の野菜を炊き、最終的には煮つめて無駄なく使い切ります。こうして炊くことで煮しめ全体としての味の一体化を図ります。

別々の土地をそれぞれに流れてきたいくつかの小川が下流に行くに従い、2本、3本と合流して最後は一つの大河になっていくような感じです。

今年のおせちは、ぜひこのやり方で煮しめを炊いてみてはいかがでしょう。神、自然、先祖、家族とのつながりを確かめ合う正月にふさわしい、つながりを生かした野菜料理を楽しみましょう。



ちょっとしたコツ


・「煮しめ」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激

素材ごとに、2日かけて調理することで、それぞれ味を十分に含んだ煮しめとなる。

・でんぷん質が多いれんこんとくわいの煮汁でごぼうを、でんぷん質が少なめのたけのことにんじんの煮汁でしいたけを炊く。

・調味の薄いものから炊いて、次はその煮汁を使って少し濃い味のもの、そして最後はすべての煮汁を合わせてこんにゃくを炊く。

たけのこの水煮は生のものに比べて旨みと風味が乏しいので、少しだけ甘めに調味したほうがおいしくなる。味に深みをつけたければ開いた油揚げを一緒に炊くとよい。

地(煮汁)の使い回しの流れ






「煮しめ」



煮しめ
【材料(作りやすい分量)】
・れんこん(皮をむく) 180g
れんこんの煮汁:米のとぎ汁適量(下茹で用)、出汁500cc、日本酒大さじ1、みりん小さじ2、薄口醤油大さじ1、塩1g

・くわい 10個(150g)
くわいの煮汁:米のとぎ汁適量(下茹で用)、出汁500cc、日本酒大さじ1、みりん大さじ1と2/3、薄口醤油小さじ2、塩1g

・たけのこ(水煮) 2本(200g)
たけのこの煮汁:出汁500cc、日本酒大さじ2、みりん大さじ1と1/3、薄口醤油小さじ2、塩1.5g

・金時にんじん(皮をむく) 80g
金時にんじんの煮汁:出汁300cc、日本酒大さじ2/3、みりん大さじ1と2/3、薄口醤油小さじ2、塩0.5g

・ごぼう 100g

・サラダ油 少々
ごぼうの煮汁:出汁100cc、れんこんの煮汁の残り100cc、くわいの煮汁の残り100cc、 濃口醤油小さじ1/2弱

・干ししいたけ(中) 5枚

・砂糖(干ししいたけのもどし用) 少々
干ししいたけの煮汁:昆布5cm、椎茸のもどし汁300〜400cc、たけのこの煮汁の残り100cc、金時にんじんの煮汁の残り100cc、濃口醤油大さじ1、みりん小さじ2、砂糖小さじ2、サラダ油少々

・玉こんにゃく(普通のこんにゃくでもよい) 150g
玉こんにゃくの煮汁:酢少々(下茹で用)、サラダ油小さじ1、赤唐辛子(種を抜く)1本、ごぼうの煮汁の残り50cc、干ししいたけの煮汁の残り100cc

【作り方】
1日目
1.れんこんを炊く。れんこんは皮をむいて一口大より少し大ぶりに切って、米のとぎ汁で10分程茹でて水に放す。茹で方については「小いもの含め煮」も参照。流水の中で表面のぬめりを洗い流してざるに上げ、水気をきって鍋に入れる。出汁を注いで火にかけ、調味料を加えて沸いたら火を弱め20分程炊いて火からおろす。冷めたら保存容器に移して冷蔵庫保存する。

2.くわいを炊く。くわいは座りがよくなるように底を平らに切り落とす。芽を落とさないように注意しつつ皮をむく。おせち料理に使う場合は底のほうから芽に向かって縁起よく六回か八回でむく。芽は長いままだと炊いている途中で折れやすく、盛りつけにくいので先を切って好みの長さに揃える。鍋にくわいを入れ米のとぎ汁を注いで、15分ほど茹でる。茹で上がったら、水に放して流水の中で表面のぬめりを洗い流してざるに上げる。鍋に水分を除いたくわいを入れる。出汁を注いで火にかけ、調味料を加えて沸いたら火を弱め15分ほど炊いて火からおろす。冷めたら保存容器に移して冷蔵庫で保存する。

3.たけのこを炊く。たけのこの水煮は添加物が使われているものは熱湯で2分程茹でて水に放し水気をきって用いる。不使用のものもさっと下茹でしたほうが異臭が残ったり煮汁が濁ったりしない。好みの大きさに切ったたけのこを鍋に入れる。出汁を注いで火にかけ、調味料を加えて沸いたら火を弱め15分ほど炊いて火からおろす。冷めたら保存容器に移して冷蔵庫で保存する。

4.金時にんじんを炊く。金時にんじんはピーラーを使って皮を薄くむき、一口大より少し大ぶりに切る。5〜6分ほど下茹でして冷水に放しざるに上げて水気をきる。金時にんじんを鍋に入れる。出汁を注いで火にかけ、調味料を加えて沸いたら火を弱め10分ほど炊いて火からおろす。冷めたら保存容器に移して冷蔵庫で保存する。

2日目
5.ごぼうを炊く。ごぼうはたわしで洗い、一口大より少し大ぶりに切る。鍋に水を注いでごぼうを入れて火にかけ、沸いてから10分ほど茹でてざるに上げる。フライパンを火にかけ、サラダ油をひきごぼうを加えてところどころに焦げ目がつくよう炒める。ごぼうを鍋に入れる。前日に炊いたれんこんの煮汁とくわいの煮汁に出汁100ccをたしたものを加えて火にかける。沸いたら火を弱め濃口醤油を加えて20分ほど炊く。途中で煮汁が減ってきたら、最初の煮汁の量と同じになるように出汁を加えて炊く。「ごぼうの旨煮」も参照。

6.干ししいたけを炊く。干ししいたけは砂糖を少量加えた水に浸して冷蔵庫などの低温下で最低1時間以上もどす。干ししいたけがもどったら、もどし汁と分ける。もどし汁は砂などが混じっていることがあるので、一度クッキングペーパーでこす。干ししいたけは石づきの部分は切り捨て、笠と軸を切り分ける。鍋にもどし汁と干ししいたけ、昆布を加えて火にかける。沸いたら弱火にして1時間ほどゆっくり柔らかく炊きもどしていく。干ししいたけが柔らかくもどって、煮汁も減ってきたら、昆布を除く。前日に炊いたたけのこの煮汁と金時にんじんの煮汁を加え、沸いたら調味料もたして煮汁を煮つめていく。煮汁が200ccくらいに煮つまったら煮汁のうち100ccを別に分け、残りの煮汁を焦がさないように煮つめて干ししいたけにからめていく。煮汁がほとんどなくなってきたらサラダ油を加え干ししいたけに絡めて火からおろして冷ます。「きゅうりとしいたけの合い混ぜ」も参照。

7.玉こんにゃくを炊く。玉こんにゃくは酢を加えた湯で茹でて臭みを抜いて用いる。臭みの抜き方は「こんにゃくのピリ辛煮」を参照。鍋にサラダ油をひいて唐辛子を加えて火にかけ、水気をきった玉こんにゃくを入れて炒める。油が玉こんにゃくになじんだらごぼうの煮汁と干ししいたけの煮汁を加えて、煮汁を煮つめながらこんにゃくに絡めていく。焦がさないように火加減を調整しつつ煮汁がほとんどなくなるまで煮つめる。

8.れんこん、くわい、たけのこ、金時にんじん、ごぼう、干ししいたけ、こんにゃくを器に盛る。

私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。

六雁(むつかり)

榎園豊治さんプロフィール
銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。

六雁 むつかり

東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:http://www.mutsukari.com

六雁 むつかり 料理長、秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。
文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗
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