カリフラワーの長いもとろろ焼き
カリフラワーの和風グラタン? いえいえ、違います。私は自分の料理を創作料理と言われてもなんともありませんが、○○風と言われると「ちょっと待て」……となる頑固者です(笑)。
和食だからベシャメルソースは気がひけるということで、山いもをかけたわけではありません。少しモサモサしたりパサパサするような食感のものには、山いもを合わせると大変食べやすくなるのです。これまでも同様の理由から「
とんぶりの土佐和え、とんぶりと秋野菜の山かけ」や「
菜花とたたきいもの辛子和え」などで活用しました。
素材に味を染み込ませるのではなく、素材の味はそのままに表面だけに味をつける場合も山いもは役立ちます。まぐろの山かけもその一つで、醤油の味がからみやすくなります。焼き目をつけたのもグラタンを意識したのではなく、そうすることでメイラード反応(アミノ酸と糖が加熱によって結びついて香ばしさなどを生み出す。「
筑前煮」参照)が起こり、よりおいしくなるからです。
ここからが今日の本題です。今回使った山いもは長いもで、食味からいえば大和いもや自然薯に負けます。ではなぜ長いもを使ったのか? 安いからではありません。すりおろしているので長いも独特の食感も生かされません。答えは大和いもや自然薯はおいし過ぎるからです。
「おいし過ぎる」という言葉を聞き慣れない方は、一瞬戸惑いや矛盾を感じるかもしれませんね。私の師匠や日本料理の名人たちが時々、口にした言葉です。私もこの言葉を最初に聞いたときは、おいしいに越したことはない、おいしければおいしいほどいいはずではないかと思ったものです。その後、年齢と経験を重ねるにつれ、この言葉がいかに言い得て妙であるかが、少しはわかるようになりました。
中華やフレンチ、あるいはラーメンのスープのように、牛・豚・鶏・魚介・野菜や各種油脂などの旨みをどんどん足し重ねていけば最高においしい、特別な味が完成する。確かにそのとおりだと思います。
一方、日本料理では煮もの椀などは一口目では薄いと感じ、飲み終わりの頃にちょうどよくなるように調味します。一口目からおいしいのは、それこそおいし過ぎとされます。わかりやすさではなく、含みのある、余韻の残るおいしさというものを日本料理は大切にするのです。
ジャンクフードを開発する食品会社では、おいし過ぎるものを作ると評判を呼び、一時的には飛ぶように売れるそうです。しかし、おいし過ぎるがゆえに飽きられ、そのブームは一過性のもので終わり、そこそこおいしい定番商品には敵わないというのです。
「いかに優れた部分最適化も全体最適化には勝てない」というP.F.ドラッカー(オーストリア・ウィーン出身の経営学者)の名言ではありませんが、いも自体としてはおいしい自然薯や大和いもであっても、それを使うことでカリフラワーの個性が薄れ、料理全体としてはバランスが悪くなるのです。
私の頑固さは師匠譲りなのかもしれませんが、私はただの頑固一徹というだけで、師匠や先達たちのような境地には程遠く恥ずかしい限りです。ただ、“一徹”も押し通せば「“一”念岩をも“徹”す」に至る可能性もあります(笑)。私が師匠にも負けないこと、それは野菜料理を楽しむことです。
ちょっとしたコツ
・「カリフラワーの長いもとろろ焼き」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎︎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・カリフラワーは茎や外側の小さな葉も食べられる。茎は堅い外側をピーラーでむいて炒めものなどに。
・堅めに茹でて水に放さず、ざるに上げてそのまま余熱で火を通すと水っぽくならない。
・紫カリフラワーは茹でると緑色になるものと紫色が残るものがある。今回は紫が残るパープルフラワーを使用。湯に酢を加えて茹でると発色する。
・500Wの電子レンジで2分加熱すると、手軽で栄養や旨みも抜けにくいが、茹でる場合と違い、途中で堅さを確認しづらいので理想の食感にするのが難しい。
・粉山椒は仕上げにふるのではなく、すりおろしたいもに混ぜる。アクセントとなる山椒の風味が全体に行き渡るようにする。
・焼き上がり後、好みでオリーブ油をかけてもよい。
「カリフラワーの長いもとろろ焼き」
【材料(2人分)】・カリフラワー(カリフラワー、ロマネスコ、紫カリフラワー) 合計65g
・塩 少々
・長いも 80g
・薄口醤油 小さじ1/2
・塩昆布(みじん切り) 少々
・粉山椒 少々
【作り方】1.各種カリフラワーは茎側から切り込みを途中まで入れ、手で裂いてから包丁で2cm程度の小房に分ける。
2.鍋に湯を沸かしカリフラワーを入れて堅めに茹で、水に放さずざるに上げて薄く塩をふる。紫カリフラワーは発色させるため湯に酢(材料外)を加えて茹でる。
3.長いもの皮をむいてすりおろし、ボウルに入れて薄口醤油で味をつける。粉山椒と塩昆布も加えて混ぜる。
4.耐熱製の器にまだ温かいカリフラワーを入れ、長いもとろろをかける。予熱したオーブントースターやグリルに入れて焦げ目をつけ、あつあつの状態で供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。