驚きと感動の“美味逸品” 第6回(全29回) 料理は、言葉より雄弁にその国のことを物語ります。駐日大使公邸のおもてなしを拝見し、世界各国の料理をレストランで楽しみ、珍しいスパイスやハーブに出合える食材店を巡る――私たちの周りにたくさんある“日本の中の外国”へご案内します。
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地中海の恵みを味わう名物料理でパーティを
ドレスとネクタイの色を揃えた装いからも仲のよさが伝わる大使ご夫妻。鮮やかな黄色は、大使曰く「チュニジア南部に広がるサハラ砂漠の色」なのだそう。「チュニジアと日本の国旗に共通する赤と白を中心にしたテーブルセッティングです」と夫人のフーダさん。アフリカ大陸随一のスパイス料理国
手前から・「魚の海老詰め」は、はたの骨を取り、海老や卵、パセリ、クミンとターメリックのパウダーなどを詰めて焼いた料理。「ローストチキン 野菜添え」は新年を祝う料理の定番。銀細工とマスカットのワイン、吹きガラスもチュニジアの名産品だ。北アフリカのほぼ中央に位置し、地中海に面して南北にのびる国、チュニジア。漁業が盛んな一方、豊かな穀倉地帯もあり、また古くからヨーロッパや中東の国々と交流してきたため、食文化が豊かなことで知られています。特徴の一つは、豊富なスパイスを使った辛い料理が多いこと。
2020年にユネスコ無形文化遺産に登録されたクスクスは、特別な日のご馳走で種類も豊富。この日は「ラムとひよこ豆のクスクス」。その象徴といえるのが、赤唐辛子とにんにく、コリアンダーなどで作る辛味調味料「ハリッサ」です。また、上質な国産オリーブオイルをふんだんに使うのも特徴。「どちらもチュニジア人の食卓に欠かせません。オリーブオイルにハリッサを加えたものは、パンによく合いますよ」と夫人のフーダさんは話します。
[駐日チュニジア大使]モハメッド・エルーミさん(左)1973年生まれの大使はカルタゴ大学商業高等研究所、チュニジア外交学院卒業。98年にチュニジア外務省入省、2018年より現職。夫人はケベック大学大学院でプロジェクトマネージメントの修士号を取得。いけばな草月流のお免状を持つ。お子さんが2人いる。大使夫妻によると、日本人に一番人気のチュニジア料理は前菜の「ブリック」。ツナと半熟卵、チーズ、玉ねぎ、パセリを春巻き風の皮「モルソカ」で包んで揚げた料理です。
左上から時計回りに、キャロットサラダ、グリル野菜の「メシュイアサラダ」、春巻きに似た皮「モルソカ」を使った名物料理「ブリック」、大麦入りシーフードスープ、たこサラダ。ブリック以外はスパイシー。「半熟卵を食べるところは日本と共通していますね。ただ、食べ方によっては、卵が流れ出てしまいます。手に持って角から少しずつ食べていき、半熟卵のところにきたらすする。日本には麺をすする文化があるので、皆さん上手に召し上がられます」。大使は説明しながら、お手本を見せてくださいました。
イスラム教の国ゆえにクリスマスを祝う習慣がないチュニジアにおいて、冬のイベントといえば家族や友人と大勢で祝う新年の集い。料理は分担して持ち寄るといいます。
「妻の担当は手巻き寿司なんです」と大使が楽しそうに明かすと、夫人は「日本の料理教室で習ったものをチュニジアで振舞ったら好評で、毎回頼まれるようになりました。ただ、チュニジア人には生魚を食べる習慣がないので、まぐろも海老も少しだけ火を入れて作ります。私たち家族はお刺し身が大好きですけどね」とにっこり。
集いのハイライトは深夜0時のカウントダウンで、「みんなでハグとキスを交わし、新年を祝うのはとても大切な習慣です」と大使。親しい人たちとの心温まる交流は、新しい一年への活力となります。
下のフォトギャラリーで詳しくご紹介します。 撮影/阿部 浩 取材・文/清水千佳子
『家庭画報』2022年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。