世界から注目を集めるすしの名店「日本橋蛎殻町 すぎた」杉田孝明さんの技

今、世界に発信する、最高峰料理店へ

道なき道を切り拓き、常に技を磨き、心震わす一品を生み出し続ける料理人たち。特集第10回からは世界中の料理人、美食家から一目を置かれ、今、まさに円熟の時を迎える料理人をクローズアップします。

日本橋蛎殻町　すぎた
杉田孝明さん

「すぎた」の最初の握りは、光りものの「こはだ」から。この一かんで瞬時に心をつかまれる。余韻の長い複雑な味わいに陶然となる。

真摯な仕事と美しい立ち居振舞い。世界に誇る江戸前ずしの技

大間の本まぐろの赤身。きりっと粒立ちしたすしめしとのバランスが絶妙。当代きってのすし職人の人懐こい笑顔が、真顔になる瞬間。

江戸時代より商業地として知られる日本橋蛎殻町に、世界から注目を集める一軒のすしの名店があります。

魚の特性を見極め、丁寧に江戸前仕事を施したすし種と、長時間浸水させて羽釜で仕込んだ渾身のすしめしが一体となった握りは、艶めいてふくよか。一かんごとの姿形の美しさ、口中に広がる清らかな味わいと深い余韻に、江戸の粋と謳われるすしをいただく悦びが湧き上がります。

右上から時計回りに・しめさばを大葉、芽ねぎ、がり、海苔で巻いた杉田さん考案の「さば巻き」。藁であぶる宮城の「さわら」。軽く塩でしめ3日ねかせた愛知の「みる貝」。塩でしめてから昆布じめにした茨城・大洗の「かすご」は、塩とすだちで。

そこにはご主人・杉田孝明さんの「昨日よりも今日、今日よりも明日、もっとおいしいすしを極めたい」という揺るぎない姿勢と、お客さまの心を満たして幸せにして帰したいという想いが込められています。

だからこそ、「すし屋をやっていて毎日飽きるということがない。生まれ変わっても間違いなくすし職人をやっている」と屈託なく笑う杉田さんの人柄とすしの味に魅せられて、わずか8席のカウンターでの時間を、誰もが心待ちにするのかもしれません。



杉田孝明さん
（すぎた・たかあき）1973 年千葉県生まれ。高校卒業後、老舗「日本橋蛎殻町 都寿司」に入り、2004年に独立。東日本橋に「橘町 都寿司」を開く。日々、独自の手法ですしの味わいを探求し人気店となる。15 年に現在の場所に移転し「日本橋蛎殻町 すぎた」をオープン。写真右・都内有数の予約困難店「すぎた」は、カウンター8席、個室4席

小学生の頃は野球に明け暮れていた杉田さんが、すしの道に進もうと決意したきっかけは、テレビドラマ『イキのいい奴』（原作『神田鶴八鮨ばなし』）の一途なすし職人の姿に憧れたことから。やがて日本橋の老舗すし店に入り、持ち前の負けず嫌いの性格と明るさで12年間、懸命に修業し、30歳で独立を果たします。

当初は修業先で習い覚えた伝統仕事に自分なりの工夫と試行錯誤を繰り返すうちに、扱う魚はもとより、仕込み全般、すしめしまでを徹底的に見直すことに。その頃から少しずつ評判が高まり、都内屈指のすしの名店として全国にその名が知られるようになりました。

今や数か月先まで埋まった予約帳の中には、こちらのすしを目的に何度も来日している外国のお客さまも。そんな触れ合いを通じて、機会があれば海外のイベントにも足を運び、江戸前ずしの真髄を伝えたいと考えるようになったそう。緩やかに深化してきた「すぎた」のすしは、次世代への確かな道標を築いています。

日本酒とともに味わう肴が、特別な時間をしっとりと彩る

握りの前に供される季節の酒肴の数々。北海道・仙鳳趾（せんぽうし）の甘みが強くぷりぷりとした生がき。天にわさびをのせた、なめらかな食感のあん肝。うまみと歯触りが抜群のたこ柔らか煮。冷たいだしに漬けた白子。あん肝と相性のよい、秋田「新政酒造」の貴醸酒「陽乃鳥」を添えて。