ここでしか味わえないひと皿で魅了する 世界一美味しい日本のイタリア料理 第2回(全10回) 特別な日にはエレガントなリストランテの料理、日常では気軽にパスタやピッツァやドルチェ……。ここまでバラエティに富んだイタリア料理を楽しめるのは、世界において日本だけかもしれません。時代ごとのムーブメントを積み重ねながら、確実に進化している日本のイタリア料理。その現在地に迫ります。
前回の記事はこちら>> 円熟期を迎えたシェフが挑む“マイ スタイル”
イタリアで日本で。数々の経験を重ね、まさに円熟期を迎えた料理人たちが、まるで自宅のダイニングにゲストを招くような温かさで、唯一無二の料理、もてなしに挑んでいます。さらなる期待のかかる3名のシェフを訪ねました。
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ヴェンティノーヴェ(群馬・川場村)竹内悠介さん・舞さん・ピアット ミツ(東京・麻布十番)岡村光晃さん ※この記事
・オルトレヴィーノ(神奈川・鎌倉市)古澤一記さん・千恵さん ※4/24公開
岡村光晃さんの故郷・静岡の名産桜えびをトマトとブランデーでじっくり煮てうまみを引き出したスパゲティ(手前)。トリッパのタリオリーニ(奥)は、トマトソースではなくミニトマトを使って、トリッパに爽やかさをプラス。見た瞬間に感動を呼ぶひと皿をカウンターから
ピアット ミツ(東京・麻布十番)岡村光晃さん岡村光晃さんがイタリア料理の道に進んだのは、たまたま師匠がその分野の人だったから。しかも、イタリア現地での修業経験はありません。
しかし、飽くなき探究心が、岡村さん独自のイタリア料理観を築き上げていきました。
「イタリア料理は地方性が顕著で、そこを重視する料理人も多くいますが、僕はあえてこだわりません。もちろん、調理法や味わいについては伝統に従い、美味しく作るにはどうすればいいのか、この一点に集中して無駄を削ぎ落としています。目にした瞬間に美味しそうと感じてもらえること、それが僕の志すイタリア料理です」
前菜の一つ、めじまぐろ。分厚い身に、アンチョビー、セミドライトマト、ケイパーのソースをかけ、ハーブサラダを添えて。ワインあってのイタリア料理というのも岡村さんのこだわり。ワインに合わせて料理の塩味、酸味、香りなどを加減します。お酒が飲めない人にも料理とのペアリングを堪能してほしいとノンアルコールワインも用意しています。
また、イタリアでは当たり前のハムやサラミの代わりに、日本の豊かな魚を用いて前菜とするのも岡村さん流のイタリア料理へのアプローチです。
セコンドピアットの鴨は、ベンコット(しっかり焼いた)に仕上げて。バルサミコ酢に比べて酸味のないモストコット(ぶどう果汁を煮つめたもの)を使ったソースのこくがよく合う。新鮮な魚にシンプルなソースを添えただけ、しかし、切り身は分厚く、食べ応え十分に仕立てます。時期によって魚種が変わることで季節感を表現するのはイタリアにはない美点です。
調理、サービスのすべてをシェフが一人で担当するため、のんびり構えてすごすのがおすすめ。カウンターという日本ならではのスタイルを取り入れたのも、ひとえに非日常のひとときを過ごしてもらいたいから。イタリアと日本のいいとこ取りを満喫できる、それが「ピアット ミツ」の魅力なのです。
岡村光晃さん(おかむら・みつあき)
東京・麻布十番の「トラットリア・ケ・パッキア」の開業と同時にシェフに就任。2020年に独立、福岡で「ピアット ミツ」をオープン、22年5月に麻布十番に移転。お客さまが楽しそうに過ごすのを見るのが何よりの喜びと語る。ピアット ミツ東京都港区元麻布1-7-12 7階
TEL:03(5442)9225
営業時間:18時〜21時30分
月曜定休
コース1万2100円〈前菜はおまかせ、パスタとメインの内容はその場で相談しながら〉 要予約
撮影/本誌・坂本正行 取材・文/池田愛美 ※本特集でご紹介するレストランの料金には、別途サービス料がかかる場合がございます。予めご了承ください。
『家庭画報』2023年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。