ここでしか味わえないひと皿で魅了する 世界一美味しい日本のイタリア料理 第8回(全10回) 特別な日にはエレガントなリストランテの料理、日常では気軽にパスタやピッツァやドルチェ……。ここまでバラエティに富んだイタリア料理を楽しめるのは、世界において日本だけかもしれません。時代ごとのムーブメントを積み重ねながら、確実に進化している日本のイタリア料理。その現在地に迫ります。
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グローバルな視野のもとイタリア料理の道を究めるに従い、独自のスタイルを確立するシェフが出現しています。日本を代表するファインダイニングを率いる2人(「ファロ」能田耕太郎さん、「アルヴァ」平木正和さん※5/9公開)が今、目指す新境地とは。
ヴィーガンには無限の「美味しい」可能性がある
ファロ(東京・銀座)
能田耕太郎さんアスパラガスのパイ包み。野菜くずから作った通称“サステナビリティソース”の赤色が華やかに彩る。20年近くイタリアで過ごす中でシェフとして2度ミシュランガイドイタリアで1つ星の評価を得た能田耕太郎さん。外国人ゲストにヴィーガン料理を求められることがあり、調べてみるとヴィーガン向けの食材は非常に多くあれどすべてが美味しいわけではないことを知ります。
「美味しいことがまず第一」と考える能田さんは、ヴィーガン料理の探究にのめり込んでいきました。
ふきのとう味噌、マッシュルーム、ヴィーガンチーズを詰めたラヴィオリ。レモングラスとマッシュルームのブロードを注いで。ヴィーガン料理は、動物性の食材を植物性のそれに置き換えた“擬似料理”であることが一般的。例えば、カツレツは肉ではなく植物ベースの代替肉を使います。しかし、それはあくまでもカツレツを模した料理で、そこに料理人のアイデンティティは生まれません。
フィンガーフード3種はハーブの茎のタルト、にんじんとコンブチャマリネの金柑、梅の花のコンブチャゼリーを被せたヴィーガンチーズと発酵キャベツのペースト。「ファロ」のシェフに就任し、日本の食材を探索するうちに出会ったのが、先人の知恵と工夫が込められた日本伝統の精進料理。高野山などからインスピレーションを得て研究を重ね、辿り着いたのは、食べて美味しく、そして体を美しく整える、オリジナリティ溢れるヴィーガン・ガストロノミー(美食学)です。
カシューナッツと塩のみで乳酸発酵させたヴィーガンチーズ。「僕のヴィーガン料理は、すでにイタリア料理という枠には当てはまらないと思います」と能田さん。自身の“皿上のアイデンティティ”はヴィーガン料理を通して揺るぎないものとなりました。
「ヴィーガンの人もそうでない人も満足してもらえるようにコースを組み立てています。美味しく楽しんでいただく、それが僕の目指すヴィーガン・ガストロノミーの真髄です」
能田耕太郎さん(のうだ・こうたろう)
1996年に神戸「マルケージ」入店、99年に渡伊。各地で研鑽を積み、シェフとしてミシュランガイドイタリアで2度1つ星の評価を得て、2018年に「ファロ」エグゼクティブシェフに。ミシュランガイド東京で1つ星、グリーンスター。ファロ東京都中央区銀座8-8-3 10階
フリーダイヤル:0120-862-150
TEL:03(3572)3911
営業時間:12時〜13時30分(LO)、18時〜20時(LO)
日曜・月曜定休
ランチヴィーガンコース8000円、通常のコース1万円、ディナーヴィーガンコース1万5000円、通常のコース2万円
要予約
撮影/本誌・坂本正行 取材・文/池田愛美(96~102ページ、104~107ページ) ※本特集でご紹介するレストランの料金には、別途サービス料がかかる場合がございます。予めご了承ください。
『家庭画報』2023年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。